他国を武力で守る集団的自衛権の行使を容認する閣議決定から1日で10年。歴代政権が「憲法上許されない」と禁じ、長年堅持された憲法解釈の変更に危機感を抱き、違憲と訴える弁護士たちの街頭活動が6月で100回目を迎えた。地道な活動の根底に、どんな思いがあるのか。(曽田晋太郎)

◆「集団的自衛権の行使」容認の閣議決定から10年、声を上げ続ける

100回目を迎えた街頭宣伝活動への思いを語る山岸良太弁護士(右)と福山洋子弁護士=東京都内で

 「100回目はおめでたい話ではなく、100回続けなければいけない残念な状況ではあるんですけれど、何としてでもこの憲法違反の安保法制をやめさせなければいけない」  6月10日夕、東京・有楽町駅前で開かれた第二東京弁護士会(二弁)主催の「安全保障関連法を廃止し、立憲主義の回復を目指す街頭宣伝行動」。冒頭、二弁の憲法問題検討委員会の委員長を務める福山洋子弁護士がマイクを握った。  「弁護士の使命は、基本的人権の擁護と社会正義の実現。戦争が最大の人権侵害だとするなら、戦争に一歩でも近づく動きに対し、私たち弁護士は声を上げ続けなければいけない」

◆弁護士20人が道行く人に訴え

 街宣は日弁連、関東弁護士会連合会、東京弁護士会、第一東京弁護士会の共催。集団的自衛権行使を認める第2次安倍政権の閣議決定の2日後、2014年7月3日に初めて開き、今回で100回目となった。この日は参加した約20人の弁護士が1人ずつマイクを握り、道行く人たちに思いを訴えた。  「弁護士としては、法律の仕組みとして憲法に書いてあることを閣議決定で変えるのは、それはいくらなんでもないだろうと。本当は憲法改正手続きを取らなければいけないのに、変え方がおかしい。そうなったらもう何でもありになって、本当に無法状態になってしまうのではないかという危機感があって始めた」

◆「法律家として違和感あった」

 初回から街宣に携わる二弁元会長で日弁連憲法問題対策本部副本部長の山岸良太弁護士は、当時の経緯を振り返り「法律家にとってそれほど集団的自衛権を閣議決定で容認したことに違和感があった」と語る。  危機感を募らせた各弁護士会の同志20人ほどが集い、始まった街宣。当初は「内閣の閣議決定による集団的自衛権行使容認を阻止する街頭宣伝」と題し、2014年度は5回行った。その後も断続的に開催し、2015年9月に集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法が成立したことを受け、現在の名称に変更。2015年11月以降はコロナ禍を除き、毎月有楽町駅前で行ってきた。

◆自民党政権下、安保政策の転換が続く

100回目の街頭宣伝活動でマイクを握る福山洋子弁護士(中)と山岸良太弁護士(左)=東京・有楽町駅前で(第二東京弁護士会提供)

 当初から参加する福山氏は「弁護士会が街宣をここまでやるというのは相当なことで、なかなかない。それほどの異常事態」と話す。集団的自衛権行使容認の閣議決定後、安保関連法が成立し、現在の岸田政権は敵基地攻撃能力の保有や武器輸出ルールの緩和を決めるなど、自民党政権の下で憲法9条に基づく平和国家の在り方が変わるような戦後日本の安保政策の転換が続いている。  街頭では最近、立ち止まって訴えに耳を傾ける人や声を掛けてくれる人が増えているという。山岸氏は「ロシアとウクライナの戦いの長期化やパレスチナの紛争もらちが明かず、戦争への恐怖の実感が市民に広がっている結果ではないか。10年街宣をやって、今また少しずつ関心が高まっていると感じる」と語る。  安保関連法の廃止まで声を上げ続ける。

◆戦前の反省から「今頑張らないと」

 福山氏は「戦前、弁護士会も大政翼賛的で、平和を貫くことができなかった反省が身に染みてある。そうしたことに絶対ならないよう、今頑張らないといけない」と決意を語る。  そして山岸氏は語気を強める。「戦争がすぐ隣まで来ている危機感から、もうやめられないのではなく、やめる選択肢はない。今だったら十分、戦争に向かう流れを止められる」。101回目は7月8日午後5時半から有楽町駅前で行う。 

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