7月7日に投開票される東京都知事選は終盤戦を迎えた。無所属新人で人工知能(AI)エンジニアの安野貴博氏(33)は、最新のウェブ技術を駆使して政策の「アップデート」を図っている。選挙後には、今回活用した仕組みを誰でも利用できる形で公開し、民主主義自体のアップデートにもつなげようとしている。(松島京太)

◆「公約」に誰でも変更や追加の提案ができる

「実は選挙に出るまで知らなかったが、変更提案を読んでその通りだと思った」。安野氏は、反映させた変更提案50個(7月1日時点)の政策の一つ「男性のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種への助成」について語る。

GitHubの仕組みを説明する安野貴博氏=7月1日、東京都中央区で(松島京太撮影)

選挙期間中、ソフトウエアを複数人で開発するために使われるプラットフォーム「GitHub(ギットハブ)」を、政策議論に「応用」することを試みている。GitHub上では、安野氏が6月20日の告示日に発表したマニフェスト(公約)の「たたき台」の政策に関して、誰でも変更や追加の提案が可能だ。

◆利用者同士が提案を「吟味」 ほとんどで建設的な議論が実現

従来のように候補者にメールなどでメッセージを送るような形はない。提案者が議題を提示し、他の利用者が議論を重ね、提案に対してさまざまな目線から検証を加える。AIによって議論を妨げるような「攻撃的な発言」は非表示となり、発言には客観的な根拠が求められる。 「正直、もっと荒れると思っていた」と話す安野氏は、この活用に手応えを感じている。180を超える変更提案ごとに議論のツリーがあり、ほとんどで建設的な議論が続いている。例えば「投票すると税金が還付される」のような、ネット掲示板やSNSで確実に荒れそうな議題でも、他国の事例を紹介するなど冷静に議論が展開されていた。

◆「自分たちの声が届かない、という政治不信の解消にもつながる」

Youtube(ユーチューブ)上で24時間体制で質問に答える安野氏のAIアバター(分身)を通じても、注目されている社会課題を吸い上げようと試みる。AIアバターが視聴者のコメントに自動で返答するシステムで、4000件以上の質問の中で、「子育て支援策の所得制限の撤廃」を求める声が多かった。GitHubでの議論を通じて「間接的にはコストが下がる」と判断し、従来のマニフェストを変更した。

24時間態勢で視聴者の質問に答える安野貴博氏のAIアバター

GitHubなど今回活用した仕組みは、選挙後には誰でも使えるようにソースコードを公開するという。安野氏は言う。「変更提案をどのタイミングで取り込んだかを追えるので候補者の思考がオープン化される。『自分たちの声が届かない』という政治不信の解消にもつながると思うので、マジでみんなに使ってほしい」 

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