◆ネット駆使して「実質ゼロ円都知事」構想まで
聴衆とタッチを交わす石丸伸二氏=6月26日
「スマホのラインの友達に(自身の)写真や動画をとって、迷わず送って」 石丸氏は7月3日、JR日暮里駅(荒川区)前での街宣で集まった聴衆にそう呼びかけた。各地の街宣でも同様の呼びかけを続けた。 安芸高田市のYouTube公式チャンネルの登録者数(26万人超)が自治体として日本一だと強調。自らが知事になれば都の公式チャンネルの登録者数が増え、広告収入の増額分で「都知事の年収分くらい稼げるんじゃないか」とし、自身が当選すれば「実質ゼロ円都知事」が誕生するとPRした。石丸氏の選挙カーに貼られた「撮影・拡散OK」のチラシ
街宣車には「SNS投稿OK」「撮影・拡散OK」のステッカーを貼るなどの工夫も凝らし、ネットをフル活用して支持拡大を図っていた。◆小池氏や蓮舫氏の主張は「あまり知らない」
5月下旬から6月末までの短期間で石丸氏の陣営に登録したボランティアの数は5000人を超えたという。街頭演説の現場を取材すると、選挙戦を支えた支援者や聴衆には「初めて政治に関心をもった」と話す人が目立った。 3日にJR日暮里駅前で街宣を聞いていた江東区の男性会社員(28)は1年ほど前にYouTubeで市長時代の石丸氏を知り「こんなにはっきり物事を言う政治家がいるんだ」と感じ、「面白い人だ」とひかれた。石丸伸二氏の街宣に集まった聴衆=6月26日、東京都世田谷区
これまでは現職の小池氏や既存政党の動向や選挙に「全く関心はなかった」が、石丸氏の出馬を知り、「今回は東京を良くするために絶対に投票しないといけない」と感じた。今回の選挙戦では小池氏や蓮舫氏の主張については「あまり知らない」といい、石丸氏に実現してほしい政策も「特にはない」ものの、「石丸さんは人柄を信用できる」と期待していた。 近くにいた世田谷区の女子大生(22)も無党派層を自認。1年ほど前にYouTubeで石丸氏を知り「政治が面白いものだということがわかり、彼のファンになった」という。 既存政党やこれまでの政治について関心はない。実家は栃木県だが、「地方の市長をしていて東京一極集中の問題を理解していると思う。東京をよくしていい影響を地方に波及させてほしい」と期待。「しがらみがなく、はっきりと是々非々で東京を改革してほしい」と願っていた。◆YouTubeでの発信を見て「政治が身近になった」
同じ場所で選挙ボランティアとして聴衆の交通整理にあたっていた小平市の女性(61)は1〜2年ほど前にYouTubeで石丸氏を知り「言っていることがわかりやすくて、政治が一気に身近に感じた」という。聴衆を前に支持を呼び掛ける石丸伸二氏
これまでの都政に大きな不満を持っていたわけではないが、強い閉塞(へいそく)感を感じていたという。石丸氏の出馬を知り「将来世代のために未来の東京に向けた道筋をつけないといけないと感じ」、未経験だった選挙ボランティアへの登録を決めた。 近くにいた選挙ボランティアの新宿区の女性会社員(40)も1年ほど前に夫から「YouTubeで面白い市長がいる」と石丸氏の動画を見せられ、「わかりやすい発信がすごいと思い、ファンになった」という。 今回の都知事選では5歳の長男のためにも「いい東京にしてあげたい」と考え、初めて選挙ボランティアに登録。「政党色のない、都民のための都政を実現してほしい」と話していた。◆遠方から選挙活動に加わる人も…「自分の考えで政治に向き合う」
都外から東京入りして石丸氏の選挙戦を支える選挙ボランティアもいた。 北海道から訪れて選挙ボランティアに登録したという50代女性は、YouTubeで石丸氏を知り、「将来世代のためにも応援をしなくてはいけない」と都知事選での選挙ボランティア登録を決意。7日夜、都知事選の落選が決まり、記者の質問に答える石丸伸二氏(木戸佑撮影)
父親の関係者は自民党系、夫の関係者は共産党系が多く、これまでの選挙は「人付き合いで投票していたばかりだった」が、今回は「自分の考えで政治に向き合うことを決めた」という。仕事をしてためた金を献金し、6月上旬から東京入り。選挙ボランティアとして石丸氏の選挙戦を支援しながら「子どもや孫たちのためにも頑張りたい」と話していた。◆東国原英夫氏「勝手にシンパシーを持ってる」
選挙期間中は石丸氏自身も自身のYouTubeチャンネルを頻繁にアップしてネット上での発信に努めた。選挙戦の終盤には、元宮崎県知事で2011年の都知事選に出馬した東国原英夫氏らとネット上の動画で対談した。 東国原氏は「立場上、一候補者を応援はできない」としながらも、「大きなうねり、波、胎動で、社会とか政治とかそういったものを変えられるパワーを感じたので、勝手にシンパシーを持ってる」と石丸氏の発信力を評価。石丸氏は、自身のYouTubeの視聴者について、選挙前は50代以上が6割を占めていたが、「選挙が始まってから(登録者の世代が)下に広がってきた」と紹介した。◆「一種の地殻変動が起きた」
7日夜、都知事選の落選が決まり、あいさつに臨む石丸伸二氏(木戸佑撮影)
石丸陣営で選対事務局長を務めた藤川晋之介氏は、大学卒業後に自民党田中派の衆院議員秘書、大阪市議などを務めた。民主党時代の小沢一郎氏らの選挙も手伝うなど、150回余りの選挙戦に参謀役として携わって140以上の勝利を重ね、永田町界隈(かいわい)では「選挙の神様」の異名もとる人物だ。 藤川氏は、石丸氏について「選挙戦の当初からSNSに接する機会の多い若い層の支持は非常に強いものがあった」と指摘。選挙戦ではネットを最大限に活用して票の掘り起こしを行うとともに、街宣を通じて高齢者を含むさらに幅広い世代に支持を訴える戦略をとったという。 石丸氏は、6月29日には18カ所で街頭に立った。平日も30分単位で精力的に街宣し、都内各地で支持を呼びかけた。 藤川氏は、石丸氏の発信力を「稀有(けう)な才能」と高く評価。「何の動員もせず、石丸氏の街宣には各地で1000人を上回る聴衆が詰めかけた。普通の政治家にこんなことはできない」とした上で「これまで政治や選挙に関心のなかった無党派層が石丸氏をきっかけに政治に関心を持つようになったのではないか」と指摘。「政党から何の推薦も支援も受けない候補がここまで善戦するのは一種の地殻変動。『石丸フィーバー』が起きたとも言えるかもしれない」と話す。◆「立民都連の手塚仁雄幹事長のおかげ」
石丸氏の選対関係者は、今回の躍進について「石丸の発信力の強さが第一の要因」とした上で、蓮舫陣営の「敵失」にも言及する。 「(蓮舫氏が告示直前まで所属した)立憲民主党もミスした。共産党と組んだせいで、保守系の無党派票がうちに流れた」と指摘し、「(共産との共闘路線を推し進めた立民都連幹事長の)手塚仁雄氏のおかげだ」と語った。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。