自民党は18日、「選択的夫婦別姓」を巡る党内議論を再開する

自民党は18日、結婚の際に夫婦が同姓か別姓かを選べるようにする「選択的夫婦別姓」を巡る党内議論を再開する。経済界から早期実現に向けて国会の議論を求める声が上がる。推進派と慎重派が割れる党内で意見集約は容易ではない。9月の総裁選の争点になるとの見方がある。

渡海紀三朗政調会長が党内議論を再開するように指示した。議論の場となるワーキングチーム(WT)の新たな座長に逢沢一郎党紀委員長、事務局長に橘慶一郎元復興副大臣を充てる。

再開後初の会合は法務省や国会図書館から氏制度に関するヒアリングをする。

WTは2021年4月に設置した。同年6月に論点整理案をまとめたものの、議論が紛糾し導入の是非について結論を先送りした。10月の衆院選後は会合が開かれず「開店休業」が続いている。

党内議論を促すのは経済界だ。経済同友会は24年3月の要望書で選択的夫婦別姓の導入を求めた。経団連も6月に早期実現を求める初の政策提言をまとめた。

経団連の十倉雅和会長は記者会見で、女性の管理職が増えている現状を指摘したうえで、制度が整っていないことを「企業にとってビジネス上のリスク」と表現した。

役職員に戸籍上の姓とは異なる旧姓などの通称としての使用を認めている企業が9割に上る。

経団連が女性役員を対象に実施した調査によると、88%が通称が使用可能でも「何らかの不便さ・不都合、不利益が生じる」と回答した。通称と戸籍上の姓が違うことで海外出張の訪問先などで問題が起きているほか、論文や特許取得時に戸籍上の氏名が必須だったため、キャリアの分断や不利益が生じているという。

自民党内には推進派と慎重派の2つの議員連盟がある。浜田靖一国会対策委員長が会長を務める「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」は推進の立場をとる。6月21日に役員会を開き、経団連から提言を受け取った。

岸田文雄首相は首相就任前の21年3月、同議連の設立総会の呼び掛け人を務めていた。6月の党首討論では、世論の意見が分かれていることに言及し「国会としても議論を深めていく努力は重要」と述べるにとどめ、結論を急がない姿勢を示した。

中曽根弘文元外相が呼び掛け人代表を務める「婚姻前の氏の通称使用拡大・周知を促進する議員連盟」は慎重論を説く。保守層を中心に父母のいずれかと子で姓が異なることが「家族の一体感」を阻害するとの懸念が強い。

選択的夫婦別姓は自民党がこれまで重視してきた家族観に関わる。党内の路線対立は避けられず、WTの議論は難航が予想される。9月に想定する総裁選までにWTが方向性を示さなかった場合は、総裁選の争点になる可能性がある。

「ポスト岸田」候補として名前が挙がる石破茂元幹事長は20年の総裁選出馬時の記者会見で「基本的に実現すべきものだ」と語った。小泉進次郎氏は21年の参院予算委員会で「反対する理由は何もない」と話した。

出馬に意欲を示す河野太郎デジタル相も導入に前向きとみられる。

高市早苗経済安全保障相は慎重派の議連に参加する。結婚の際に旧姓の「通称使用届」を出せば、公的機関への届け出などで広く旧姓を使用できるようにする内容の議員立法を提案している。実現すれば「ほぼほぼ不便はなくなる」と6月25日の記者会見で発言した。

上川陽子外相は6月28日、外務省で経団連の幹部らと会い、提言を受け取った。記者会見で「広く国民全体に影響を与える。しっかり議論し、幅広い国民の理解を得る必要がある」と述べ、導入の賛否は明らかにしなかった。

茂木敏充幹事長は6月25日の記者会見で「多様な人材の活躍は社会の活力の源だ。国民の幅広い意見も踏まえてしっかり議論を進めていきたい」と強調した。

法務省によると、結婚後に夫婦いずれかの姓を選択しないとならない制度を導入しているのは日本だけだ。米国の一部の州や英国、ドイツなどでは夫婦同姓、別姓ともに認めている。中国や韓国などでは夫婦別姓を原則とする。

法務省の法制審議会(法相の諮問機関)は1996年に選択的夫婦別姓を認める民法改正案を法相に答申した。政府は96年と2010年には改正案の国会への提出を準備したが、与党内の調整がつかないなどの理由で断念した経緯がある。

法務省の21年の「家族の法制に関する世論調査」によると、夫婦同姓制度を維持した方がいいと答えた人と、選択的夫婦別姓制度を導入した方がよいと答えた割合はそれぞれ3割程度だった。夫婦同姓制度を維持しながら旧姓の通称使用の法制度を設けるべきだと答えたのはおよそ4割だった。

21年の衆院選では自民党以外の8党が選択的夫婦別姓に前向きな姿勢を公約に明記した。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。