木原稔防衛相は19日の記者会見で、海上自衛隊の潜水手当不正受給問題で元隊員4人が逮捕されていたことについて、約8カ月間報告がなかったと明らかにした。木原氏が逮捕の事実を知ったのは18日深夜。隊員らの一斉処分を公表した12日の段階でも把握していなかったことになり、「適切な発信ができておらず、深くおわび申し上げる」と謝罪した。大臣を補佐する本省内部部局(内局)が必要な情報をトップと共有しなかったことは「シビリアンコントロール(文民統制)」を揺るがす事態だ。(川田篤志)

 文民統制 職業軍人でない文民が軍隊を指揮する仕組み。政治の軍事に対する優位性を規定するもので、軍の独走や政治への介入を防ぐ目的がある。日本は戦前、軍部の暴走を招いた反省から、憲法66条に「内閣総理大臣、その他の国務大臣は文民でなければならない」と規定。首相が自衛隊の最高指揮権を持ち、防衛相には文民が充てられる。防衛省では「背広組」と呼ばれる防衛官僚が政策的見地から、自衛官の「制服組」が軍事的見地から防衛相を補佐する。

◆「大臣に報告しない判断をした」という幹部は19日に退職

 木原氏は会見で「大臣にしっかり報告するという文民統制の要諦が守られていない恐れがあるなら、由々しきことだ」と内局の対応を批判。自らの進退については「引き続き防衛省・自衛隊の体質改善をやらなければいけない」と辞任を否定した。防衛省は今後、報告が遅れた経緯や原因を調査し、関係者の処分も検討する。

木原防衛相(資料写真)

 18日午後、立憲民主党の会合で防衛省担当者が逮捕について説明したことを機に、報道機関から問い合わせが相次ぎ、木原氏に報告した。防衛相の直轄部隊である警務隊による逮捕を共有していなかった理由について、19日未明に取材に応じた三貝哲・人事教育局長は「私が大臣に報告しない判断をした。判断ミスだった」と責任を認めた。三貝氏は19日付で退職した。  逮捕者が出た場合、通常は書面で大臣に報告されるが、不正受給問題の調査が継続中だったため報告しなかったという。結果的に、木原氏の事実把握は、野党より遅れたことになる。

◆12日の65人懲戒処分発表時には逮捕者に触れず

 不正受給の疑いは2022年9月に浮上し、警務隊が捜査を開始。2023年11月、詐欺と虚偽有印公文書作成・同行使容疑で4人を逮捕。その時点で3人は懲戒免職、1人は依願退職となっていた。4人はその後、起訴猶予となった。  防衛省は今月12日、「特定秘密」の不適切管理問題、食事支給対象外の隊員による不正飲食、内局でのパワハラ事案と合わせ、不正受給問題で潜水士ら65人の懲戒処分を発表した。この際、4人の逮捕には一切触れず、処分日も一部誤りがあった。不正総額も実際より最大約1000万円小さく公表していた。  元海将で自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は取材に「逮捕者が出たことは自衛隊にとって深刻な事態で、防衛相への情報共有をしなかった内局の判断は誤りだ。組織のガバナンス(統治)の欠如だと言わざるを得ない」と指摘した。 

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