自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で政治不信が高まり、岸田文雄首相は内閣支持率が低迷している。だが、政権交代を目指す立憲民主党など野党の支持率は伸び悩み、政治に閉塞(へいそく)感が漂う。9月の自民総裁選と立民代表選を前に、有識者と政治の今を読み解き、これからを考える。初回は境家史郎・東大教授。
◆旧民主党が大盤振る舞いした政権公約のツケ
日本の政治について話す東京大の境家史郎教授=東京都文京区の東京大本郷キャンパスで(坂本亜由理撮影)
—岸田政権の支持率が低迷しているのに、野党の支持率が上がらない理由は。 「野党は、自分たちなら日本をこう良くするという魅力的なビジョンをうまく示せていない。旧民主党のマニフェスト(政権公約)が大盤振る舞いすぎてうまくいかなかったため、慎重になっている。実現可能に見せつつ、自民党政権の方向性とは違う政策をいかに打ち出せるかが重要だ」境家史郎(さかいや・しろう) 1978年、大阪府生まれ。東京大社会科学研究所准教授、首都大学東京法学部教授などを経て、2020年11月から東大大学院法学政治学研究科教授。専門は日本政治論、政治過程論。主な著書に「戦後日本政治史」「憲法と世論」など。
—自民への国民の不信感は依然として根強い。 「自民の支持率は2009年に下野した時よりも低い水準だ。今のままでは大幅に議席を減らすことはほぼ確実で、自公で過半数割れする可能性は十分ある。岸田政権は安倍政権と違って熱狂的に嫌う人は少ないかもしれないが、積極的に自民を支持する人も減っている。ただ、第1党の地位を譲るほどではないと思う。立憲民主党の地力は、09年の旧民主党よりもはるかに劣っている」◆緊張感ないシステム、腐敗につながる
—こうした今の政治状況を「ネオ55年体制」と指摘している。 「第2次安倍政権以降の政治状況は、自民党が与党の地位を長く占めた戦後の『55年体制』に似ており、こう名付けた。いわゆる政権担当能力があるというイメージを自民党が独占していて、政党間の競争性が非常に乏しい。政権交代の可能性が低い政党システムになっている。緊張感がないから自民党の気も緩み、腐敗につながりやすい」 —良い体制ではないと。 「競い合って切磋琢磨(せっさたくま)する政党間競争は必要で、良いとは思わない。競争性がなければ民主主義は死んでしまう。緊張感のなさは政権のパフォーマンスの低下にもつながる。『ネオ55年体制』は、健全な民主主義社会の運営が阻害されている状況自体を指している」日本の政治について話す東京大の境家史郎教授=東京都文京区の東京大本郷キャンパスで(坂本亜由理撮影)
◆自民が憲法の問題を訴えれば野党が勝手にもめる
—野党の分裂が自民党を利してきた部分も大きい。 「野党の分裂は戦後の日本政治の基本状態になっており、そこには根深い理由がある。占領期に日本国憲法が制定され9条ができたが、その後の外交・防衛政策との整合性を巡って非自民勢力は常に主張が割れて多党化した。憲法の問題を訴えれば野党が勝手にもめるので、自民はそのアキレス腱(けん)を突いてくる」 —政党間の競争を取り戻すために何が必要か。 「憲法を非争点化することだ。政権交代が起きた1990年代は、それまでの『保守派と革新派』の対立から『改革派と守旧派』の対立に構造が変わり、非自民勢力がまとまることができた。戦後政治で例外的な時期だった。当時の大改革のような争点を探すのは難しいが、野党がまとまりうる争点で自民を攻める形をつくらなければいけない」(聞き手・坂田奈央) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。