岸田文雄首相は、安倍政権が「積極的平和主義」のスローガンのもとで進めてきた「軍拡路線」をさらに強化する道を選んだ。歴代政権が否定してきた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を認め、安全保障政策の大転換に踏み切るなど、「専守防衛」の中身を大きく変質させた。防衛費の大幅な増額や殺傷兵器の輸出解禁なども含め、「戦える国」への転換を加速させたことになる。(大野暢子)

記者会見に臨む岸田首相(池田まみ撮影)

 首相は14日の記者会見で、政権で取り組んだ主な政策として「防衛力の抜本的強化」や「多角的な外交」などを列挙した。  岸田政権では、他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法を成立させた安倍政権の路線を発展させる形で、2022年12月に安保関連3文書を改定。敵基地攻撃能力の保有のほか、23~27年度の防衛費の総額を従来の1.6倍となる43兆円に増やす方針も明記した。

◆殺傷能力のある武器輸出を容認

 23年度には、武器の輸出ルールを緩和し、歴代政権が原則禁じてきた殺傷能力のある武器の輸出も容認。日本が英国やイタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出を可能とした。  外交では23年5月、地元の被爆地・広島市で先進7カ国(G7)首脳会議を開催したが、被爆者らが求める核兵器禁止条約への批准は否定し、同条約の締約国会議へのオブザーバー参加もしなかった。一方で米国の核兵器への依存を深め、核抑止を強化した。  日韓関係では、23年に首脳間のシャトル外交を12年ぶりに再開。徴用工問題や佐渡金山の世界文化遺産登録でも双方が歩み寄るなどし、一定の改善が進んだ。

◆戦後日本の平和主義の原則を壊す

 首相は会見で、任期中の安保・外交政策について「国際社会の複雑化や困難化に対応し、大きな成果を上げることができたと自負している」と胸を張った。だが、実質的には戦後日本が築いてきた平和主義の原則を壊し、中国や北朝鮮など周辺国との緊張感をさらに高める恐れが強まっている。    ◇

◆裏金づくりの実態は未解明

記者会見で自民党総裁選への不出馬を表明する岸田首相(池田まみ撮影)

 不出馬に当たり「国民の信頼あってこその政治であり、政治改革を前に進めるとの思いをもって国民の方を向いて重い決断をした」と裏金問題への対応を振り返った岸田首相。「残されたのは自民党トップとしての責任」として、一連の問題に決着をつける考えを示した。  首相は昨年12月、「国民の信頼回復のため、火の玉となって取り組む」と表明。安倍、二階、岸田3派の会計責任者らの立件を受け2月に公表した党の調査結果では、裏金づくりが始まった経緯や使途の詳細は明らかにされなかった。

◆閣僚経験者「辞めるのが遅すぎた」

 4月には安倍派の議員など39人を処分したものの、自らを処分対象から外したことで党内外から批判を浴びた。通常国会で成立した改正政治資金規正法も、企業・団体献金の禁止など抜本的な改革は盛り込まれず、「抜け穴」や検討項目の多さが問題視されている。  その場しのぎの対応策は国民の信頼を遠ざける一方だった。不出馬で政治責任を果たしたかのような首相の口ぶりに、自己検証や反省はなかった。  閣僚経験者は「もっと早く責任を取っていれば支持率はここまで落ちなかった。辞めるのが遅すぎた」と嘆いた。(井上峻輔) 

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