沖縄県宜野湾(ぎのわん)市にある米軍普天間(ふてんま)飛行場で、有害な有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)の対策工事にかかった費用1億7600万円を、日本政府が負担していたことが東京新聞の調べで分かった。対策工事とは別に、基地内のPFASを含んだ汚水の処理も日本側が引き受け、9400万円を負担していた。 一方で、基地周辺のPFAS汚染については、これまで沖縄県が対策費を支出してきた。 米軍が自ら負担すべき基地内の汚染の後始末は日本政府で肩代わりしながら、基地周辺の住民の健康を守るための費用については、なぜ地元に押し付けているのだろうか。(中沢誠)

2020年4月、米軍普天間飛行場から流出したPFASを含む泡消火剤=沖縄県宜野湾市で(同市提供)

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◆返還する基地の補修費に217億円

住宅街に囲まれ、「世界一危険な基地」と呼ばれる普天間飛行場では、危険性除去のため、沖縄の民意に反して、日本政府が名護市辺野古への移設工事を進めている。 いずれ日本に返還されることになっている普天間飛行場では、補修工事が毎年のように実施されている。東京新聞の情報公開請求では、2013年度から2023年度までに、工事費のうち217億円を日本側が負担していたことが判明した。 辺野古への移設工事は、埋め立て海域に軟弱地盤が見つかり、難航が予想される。普天間の返還が遅れれば、日本側の負担がさらに膨らむ恐れがある。

◆流出防止のため格納庫を補修

今回明らかになった普天間飛行場のPFAS対策工事は、日本側が負担した217億円の補修費の一部。防衛省沖縄防衛局が、PFASを含んだ汚水の流出を防ぐため、軍用機の格納庫を補修したことを認めた。 沖縄防衛局が本紙に開示した「普天間飛行場における契約記録一覧」によると、格納庫の補修は2023年2月に発注していた。

◆発端は2021年の米軍の汚水放出

普天間飛行場では、PFASを含む泡消火剤を訓練で使用。その際に生じた汚水を格納庫の地下貯水槽に保管していた。 大雨になると、貯水槽に雨水が流れ込み、汚水が外にあふれ出す恐れがあった。そこで米軍は2021年8月、PFASの濃度を下げたとして、貯水槽の汚水(6万4000リットル)を基地外の下水道へ放出した。

米軍の汚水放出を受け、「汚染水を垂れ流すな」と書いた横断幕を手に抗議する市民ら=2021年8月、普天間飛行場ゲート前で(赤嶺和伸さん提供)

放出直後、宜野湾市が基地周辺の下水を調べると、日本の暫定指針値を超える高濃度のPFASが検出された。

◆負担肩代わりは「緊急措置」

日本政府は、さらなる汚水の放出を避けるため米側と協議。その結果、日本側が基地に残っている汚水をすべて引き取るとともに、格納庫の補修も肩代わりすることになった。 汚水の処理費用と格納庫の補修工事費、合わせて2億7000万円は日本側が負担した。 沖縄防衛局は「地下貯水槽への雨水の流入を防ぐため、緊急に措置が必要と判断し、本体工事に先行して格納庫の大扉部分の補修を実施した」と説明する。

◆ドイツでは米軍が費用負担

普天間飛行場では2020年4月、PFASを含む泡消火剤が基地の外に流出する事故も起きている。2023年に実施した県の最新調査によると、基地周辺の21地点中12地点で、国の暫定指針値を超えるPFASが検出されている。指針値の44倍の濃度が検出された地点もあった。 日弁連の2018年の調査によると、ドイツの米軍基地周辺でPFASが検出された際には、米軍が浄化費用を負担したという。日本では基地内の立ち入り調査すら容易ではない。

オスプレイなどが駐機する米軍普天間飛行場=沖縄県宜野湾市で

◆沖縄県は対策費に20億円

米軍基地が集中する沖縄では、PFAS汚染も住民の生活を脅かしている。 しかし、基地周辺の汚染対策や、その費用は自治体任せだ。 沖縄県は2016年度から、汚染源の調査や水質の分析、浄化作業などを実施している。水道を管理する企業局では2023年度までの8年間で34億円、環境部では24年度までの5年間で5億8500万円の予算を計上している。 これまでに沖縄県が要した対策費40億円のうち20億円は国の補助を受けているが、県は今後も毎年10億円程度の負担を見込む。

◆水道料金値上げ、しわ寄せ県民に

普天間飛行場をはじめ県内の基地周辺で検出されたPFASについて、県は調査結果をもとに「米軍基地が汚染源である蓋然(がいぜん)性が高い」と指摘している。今年1月には、玉城デニー知事が防衛省に対策費用の負担などを求めた。 沖縄県企業局の担当者は「PFAS対策費は水道料金値上げの一因となっており、県民に負担がのしかかっている。基地由来の汚染である可能性が高い以上、米軍施設を提供している国に費用を負担してもらいたい」と訴える。 防衛省は「(PFASの一種である)PFOSなどを巡る問題は、沖縄県の皆さまが不安を抱いていることを受け止め、政府全体として取り組みを進めている。関係省庁および米側と緊密に連携し、必要な対応を行っていく」としながらも、国の費用負担については態度を明らかにしていない。

沖縄防衛局は2023年2月、格納庫の「改修建築工事」として、1億7600万円でPFAS対策工事を発注していた

◆汚染者負担の原則に反する

桜井国俊・沖縄大名誉教授(環境学)の話 汚染者負担の原則からすれば、米軍が自らの負担で実施すべきものだ。本来、返還される基地がいまだに返還されず、しかも永久使用するかのように基地のメンテナンス費用を日本側が肩代わりしていることすらおかしいのに、基地のPFASの対策工事まで日本側が負担するのは納得しがたい。

PFAS(ピーファス) 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。代表的なPFOSやPFOAは、人体への有害性が指摘されている。日本は2020年、PFOSとPFOAの合算値で1リットル当たり50ナノグラム以下とする暫定指針値を定めた。普天間飛行場だけでなく、横田基地をはじめ日本国内の米軍基地周辺で検出されており、住民生活への影響が懸念されている。



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