立憲民主党は9月7日告示、23日投開票の日程で泉健太代表の任期満了に伴う代表選をする。国会議員と国政選挙の公認予定者、地方議員、党員らの投票で決める。英国風にいうと「影の首相」といえる野党第1党の党首はどのように選ばれるのか。
選挙のしくみ
党の規則は「任期の終わる日の前30日以内」に選挙を実施すると定める。泉氏は9月末に任期満了を迎える。
「9月の自民党総裁選と選挙期間を重ねるべきだ」という要望が党内で目立った。「次の首相」を選ぶ総裁選は世間に注目される。「自民党にメディアジャックされたくない」という声は前身の旧民主党時代からあった。
ではどうするか。規則は告示から投開票までの期間を10〜17日間と定める。期間を上限いっぱいの17日間にした。2021年の代表選は12日間だった。全国で討論会や演説会を開催する。
立候補に国会議員20人以上の推薦が必要になる。自民党総裁選と同じ基準だが、立民は所属議員の「分母」が少なく、高いハードルだ。21年代表選に立候補した小川淳也前政調会長は「推薦人を集めるのは容易でない」と語る。
選挙に独自のポイント制がある。ポイントの比率が「国会議員と公認予定者の合計で50%」「地方議員25%」「党員・協力党員25%」になるように票を換算する。国会議員の票は公認予定者の倍と計算するなど少し複雑だ。
国会議員は衆参両院で136人、党員らは10万人ほどで国会議員の票は重い。
自民党総裁選は党員・党友の投票はあるが、地方議員の票はない。立民は1200人ほどいる地方議員の投票権を重視する。
18歳以上で日本国籍があれば年間4000円で党員、2000円で協力党員に登録できる。3カ月以上党員でないと投票権は与えられない。
地方議員と党員らは郵送かインターネットで投票する。国会議員と公認予定者は23日の臨時党大会の場で、地方議員、党員らの開票結果を見てから投票する。
1回目の投票で過半数のポイントを得た候補がいない場合は上位2人の決選投票に移る。国会議員、公認予定者、都道府県連の代議員が票を投じる。国会議員票は倍のポイントとなり、配分が大きい。
立民にある「派閥」
政治資金問題を受け自民党は大半の派閥が解散を決めた。立民に似た議員グループがある。代表選の日程が決まりグループの活動は活発になる。
自民党の派閥との最大の違いは原則として他グループとの「かけ持ち」が許される点だ。結束は緩やかだが、推薦人集めで存在感を示す。
最大の議員数を持つグループは「サンクチュアリ」だ。旧立憲民主党が17年に設立された際、結党の中核を担った。自治労や日教組などの労働組合の組織内議員が多く、左派色が濃いとされる。
党創設者でグループの顧問を務める枝野幸男前代表は代表選への出馬を表明した。出馬が取り沙汰される小川氏もメンバーに名を連ねる。
泉代表を支えるグループ「新政権研究会」は旧国民民主党の出身者を中心とする。同グループだけでは推薦人20人の確保が微妙なことから、泉氏の周辺は他グループからの支援にも期待を寄せる。
出馬に待望論がある野田佳彦元首相は「花斉会」を率いる。小沢一郎氏に近い議員の「一清会」は泉氏との距離を明確にする。
菅直人元首相が中心の「国のかたち研究会」はリベラル系が目立つ。若手中心のグループ「直諫(ちょっかん)の会」は重徳和彦氏を中心にまとまる。同グループの議員らは野田氏に立候補を求めた。
かつては首相選び
野党の代表選も数々のドラマが繰り広げられた。旧民主党の06年の代表選はそれまで鳩山由紀夫氏との「トロイカ体制」で党を運営してきた小沢氏と菅氏との一騎打ちとなった。
小沢氏は投票直前の演説で「変わらずに生き残るためには、変わらなければならない」と発言した。イタリア映画「山猫」からの引用だった。自分自身が変わると宣言し、党内の「小沢アレルギー」を意識し支持を訴えた。
小沢氏が政治資金の問題で09年に代表を辞任したことに伴う代表選は鳩山氏と岡田克也氏の対決となり、鳩山氏が制した。数カ月後の衆院選で勝利し政権交代を実現。鳩山氏は首相の座に就いた。
首相の座がかかった11年の代表選も名場面があった。首相だった菅氏の後継を選ぶ代表選は海江田万里氏と野田氏が決選投票に進んだ。
両氏の演説直後、1回目の投票で敗れた鹿野道彦氏がスーツの上着を脱いだ。陣営の議員に「野田支持」を伝えるサインだった。鹿野陣営の票が野田氏に流れ、野田政権が事実上誕生した瞬間だった。(田中昴、山田優奈)
英労働党、14年ぶり政権奪還 フランスは極右の台頭阻む
立憲民主党は欧米の基準でいうとリベラル、中道左派の議員を多く抱える。欧州の最近の選挙でリベラル勢力が躍進する。米大統領選も世論調査で民主党が共和党を追い上げる。
英国で2010年以来14年ぶりに労働党が政権を奪還した。7月の総選挙は保守党政権への国民の不満が露呈し、労働党が単独過半数を獲得した。
スターマー新首相が誕生した。立民の泉健太代表は「われわれにとっても大きな勇気だ」と政権交代を歓迎した。
フランスの国民議会選挙は左派連合が最大勢力となった。マクロン大統領が率いる中道の与党連合と選挙協力し、極右の国民連合(RN)を第3勢力に抑え込んだ。RNは当初は第1勢力になるとみられていたが、予想ほど伸びなかった。
11月の米大統領選はハリス副大統領が民主党候補になった。中間層底上げなどの経済政策を掲げる。
共和党のトランプ前大統領との接戦が予想される。トランプ氏はハリス氏の政策を「急進左派」「米国が共産主義化される」などと攻撃する。
記者の目 目立たぬ次世代リーダー
立憲民主党が野党第1党として存在感を示せるかどうか。代表選の顔ぶれが左右する。現在の主な顔ぶれは出馬を表明した枝野幸男氏、出馬意向のある泉健太氏だ。野田佳彦氏に期待が集まるが、同氏は往年のヒット曲をもじり「『昔の名前で出ています』で本当にいいのか」と話す。3氏とも野党第1党の代表を経験した。
次世代リーダーを擁立する動きは自民党のほうが小林鷹之前経済安全保障相の周辺などで活発にみえる。立民の若手にとり推薦人20人は高い壁だ。
総裁選候補に10人以上が浮上する自民党からは「立民より多様性がある」との声が聞こえる。立民は次世代リーダーを育成し、政治経験の長いベテランと協力し「老壮青」のバランスで党運営をしなくては政権交代はおぼつかない。(大沢薫)
【関連記事】
- ・立民、かすむ独自政策 安保・原発など足並みそろわず
- ・立民「同じ顔ぶれ」脱せるか 進まぬ人材育成・若手登用
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。