国会が閉会している夏場の恒例行事といえば国会議員の海外派遣だ。衆参両院の事務局によると、今年はすでに終わった分や秋以降の計画を含め、120人超の議員が外国に赴く。批判したいのではない。むしろ積極的に行ってほしい。

夏休みを利用して以前駐在していたインドネシアを含む東南アジアを訪れた。驚いたのは中国の電気自動車(EV)最大手、比亜迪(BYD)の同地域への急速な浸透ぶりだ。

ジャカルタやバンコク郊外の国際空港ではBYDの巨大広告がいやが応でも目に入る。日本に帰任して1年足らずだが、街中を走るBYDの車は目にみえて増えていた。

BYDはEVを武器に日本車が販売で過半のシェアを持つインドネシアとタイに挑む。タイで2023年のシェアを前年比100倍の4%に伸ばし、中国勢に押された日本勢は8割を切った。

過剰生産も指摘される中国の安価なEVが日本車の牙城を脅かしているのに「政治の動きは鈍い」(日系メーカー首脳)。日本が国際競争力を落とす現状で、国会議員が世界のいまを直視することはもはや危機管理の一環といえる。

国会議員の海外視察には世論の納得感が欠かせない。1年ほど前、自民党女性局の議員が研修で訪れたパリのエッフェル塔前でポーズを取った写真をSNSに投稿し「観光」との批判を浴びた。24年度の衆参の海外派遣で見込む5億円以上の予算も公費だ。

視察の内容は工夫の余地がある。相手国政府の関係者や知日派の有力者に会ったり、日本企業に話を聞いたりするのがお決まりだ。それだけで十分だろうか。日本の「不都合な真実」に向き合うことにヒントがある。

自民党の茂木敏充幹事長らが7月下旬にインドネシアを訪れた際、日インドネシア政府間で調整し、空港で閣僚向けの要人用ルートを使ったという。

空港での時間を短縮できても、構内のBYDの広告や車体の展示は見られない。アジアの空港は外国勢の進出ぶりを見るバロメーターでもある。

海外視察をどう政策に反映するかの発信は心もとない。衆院は24年からようやく視察の報告書をホームページで公開する。文字ばかりの報告書のPDFを載せるだけでは広報と言えない。動画やデータなども使い、わかりやすい発信を心がけるべきだ。

国民側も「百聞は一見にしかず」の意識を強めたい。外務省などによると、23年の日本国民のパスポートの保有率は2割に満たない。ビザ(査証)なしで渡航できる国と地域の数は世界でトップ級なのに、パスポートの優位をいかせない。

バンコクとシンガポールではデジタル金融のいまを垣間見た。会食時に参加者はスマホ上のQRコードなどのやりとりで割り勘を済ませていた。異なる銀行口座間の送金でも手数料はない。日本の銀行がなにかと取る手数料は何の「手数」なのかと考えさせられる。

海外の最新サービスに触れれば、邦銀の新陳代謝を促す政策にもっと期待を寄せたくなる。我々が知らずにいるために被っている不便や不利益は少なくないだろう。

ライドシェアもしかり。外国で利用した人は日本で全面解禁に反対するタクシー業界や国土交通省のいう安全性への懸念がほとんど杞憂(きゆう)だと気づく。

賃金は大きく上がらず、円安傾向も続く。いま海外に行くのはそう簡単でない。だからこそ国民の代表である国会議員が外国で学んだことを政策に反映し、生活の改善につなげる道に価値を見いだしたい。

(地曳航也)

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