来年度予算案の概算要求は、8月30日が各省庁からの提出期限で、要求を受け付ける財務省主計局では省庁の担当者とオンライン会議で結び、内容の確認作業を行っていました。
今回の概算要求で、厚生労働省は、医療や年金など社会保障の費用が増えるとして、今年度予算を4500億円以上、上回る34兆2763億円を要求しました。
防衛省は、防衛力の抜本的な強化を進めるため、今年度予算より8100億円余り多い、8兆5389億円と過去最大となりました。
文部科学省は、教員の処遇改善や働き方改革などへの対応として今年度予算より6100億円余り多い、5兆9530億円です。
財務省は、日銀の金融政策の転換で長期金利が上昇し、国債の利払い費が増えると見込んで、「国債費」の要求額を今年度予算を1兆9000億円余り上回る、28兆9116億円としました。
この結果、各省庁の概算要求の一般会計の総額は117兆円を上回り、過去最大となりました。
110兆円を超えるのは4年連続となります。
一方、賃上げや少子化対策など政府が重要政策と位置づける事業では、具体的な金額を示さない「事項要求」も相次ぎ、実質的な要求額はさらに膨らむ見通しです。
《各省庁の具体的な要求は》
育児・介護
こども家庭庁は、政府の「こども未来戦略」に明記された3人以上の子どもを扶養する「多子世帯」を対象とした大学授業料の実質無償化や、1歳児の保育士の配置基準の見直しについて、金額を示さない「事項要求」として要求しました。
また、民間企業と連携した若い世代への結婚支援の強化策などとして、53億円を要求しました。
さらに、子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないかを確認する新たな制度「日本版DBS」の実施に向けたシステム開発費などには22億円を盛り込んでいます。
厚生労働省は、フリーランスとして働く人が育児や介護をしながら安心して働けるよう、就業環境改善のためのモデル事業を行うことや発注事業者への研修を実施するための費用として、9300万円を要求しています。
教員の処遇改善
文部科学省は、教員の処遇改善や働き方改革のために、教員の給与への上乗せ分を現在の月給の4%から13%に引き上げることや、教科担任制の拡充などに必要な経費として、1兆5807億円を要求しました。
防衛力強化・安全保障
政府は2027年度にかけて防衛力を抜本的に強化する方針で、防衛省をはじめ各省庁が防衛や安全保障関連の経費を要求しています。
防衛省は、複数の人工衛星を連携させて情報を収集するシステム、「衛星コンステレーション」を構築するための費用として、3232億円を要求します。
北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返す中、発射の兆候を把握する能力を高めるねらいがあります。
また、侵攻してきた敵の車両などを攻撃する小型の無人機の取得費用として30億円、島しょ部などに必要な部隊を輸送するため民間船舶6隻を確保する経費として509億円を盛り込みました。
外務省は、OSA「政府安全保障能力強化支援」という、同志国の軍に防衛装備品を提供する取り組みに51億円を要求し、事項要求としても盛り込んでいます。
内閣官房は「台湾有事」なども念頭に、沖縄県石垣市や宮古島市など先島諸島の5つの市町村に「特定臨時避難施設」とするシェルターを整備するための調査などを行う費用、2億円を盛り込みました。
構造的な賃上げの実現
構造的な賃上げの実現も、今回の概算要求で大きな焦点の一つとなっています。
厚生労働省は、最低賃金の引き上げに伴って従業員の賃上げと設備投資の両方を行った中小企業への助成として22億円を要求しています。
国土交通省は、トラックドライバーの賃上げ原資の確保を目指して、多重下請け構造の是正や標準的運賃の普及に向けた実態調査をする費用として、1億円を盛り込みました。
能登半島地震を受けた災害対策
ことし1月の能登半島地震を受けた災害対策などの要求も各省庁が行っています。
国土交通省は、能登半島地震で古い耐震基準の住宅で被害が多かったことを受けて、全国を対象に住宅や緊急車両が通行する道路沿いの建物の耐震化を促す事業などに300億円を盛り込みました。
総務省は、消防や地域の防災力を強化するための費用として105億円を要求し、事項要求も行っています。
道路が寸断されても人員や資材を被災地に送るため機動力の高い小型の車両を消防に配備するほか、大規模な火災に備えて無人で走行する放水ロボットを整備する方針です。
偽情報拡散などへの対策
総務省は、インターネット上の偽情報、誤情報の拡散に対応するため、実態調査をする費用などとして20億円を要求しています。
外務省は、偽情報を発見するためのモニタリングや正しい情報を発信するための体制の拡充に21億円を要求しました。
警察庁は、生成AIを活用したフィッシングサイト対策に2600万円を要求しました。
沖縄振興予算
内閣府は、「沖縄振興予算」として国土交通省の所管分も含めて2820億円を要求し、事項要求も行いました。
「PFAS」被害防止
環境省は、有害性が指摘されている有機フッ素化合物「PFAS」について、健康への影響を防止するため、有毒性についての研究や水質についての目標値を検討するための費用として4億円を要求しました。
福島第一原発の処理水 風評被害対策
復興庁は、東京電力福島第一原発にたまる処理水の海洋放出に伴う風評対策として、地元水産物の販路回復や漁業者の人材育成などを支援する事業に109億円を要求しています。
医薬品不足対策
厚生労働省は、医薬品の供給不足が続いていることを踏まえ、供給状況をより迅速に医療現場などに提供し、供給状況の早期改善を図るシステムの開発に必要な費用として3億円を盛り込みました。
食料安定に向けた事業
農林水産省は、小麦や畜産物など重要な食料について、民間企業が抱える在庫などの実態調査を行う費用や不足時の供給モデルを整える事業にかかる費用として2億円を要求しました。
外国人受け入れ管理強化
法務省は育成就労制度の創出や、インバウンドの増加を踏まえた出入国在留管理の体制整備に関する費用として362億円を要求しました。
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