岸田首相とルラ大統領㊨

岸田文雄首相は5月上旬にブラジルを訪問し、ルラ大統領とグリーン分野の包括的な協力パッケージで合意する。脱炭素社会の実現に向けて需要が高まるバイオ燃料などで技術協力を進める。同分野での日本企業のブラジルへの投資拡大も後押しし、日本への輸入増につなげる。

首相のブラジル訪問には40社以上の企業が同行し、ブラジルとの連携で覚書を交わす。日本からの投資拡大をテコに、官民を挙げて脱炭素分野での2国間の連携を深める。

協力パッケージは「グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ(GPI)」で、これから両国で取り組むべき課題を挙げる。

ブラジルは2024年の20カ国・地域(G20)の議長国を務めており、テーマとして「気候変動を含む持続可能な開発」を掲げる。25年には国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)の議長国も務める予定だ。

日本は脱炭素分野のアジェンダづくりの主導役となるブラジルと歩調を合わせ、新興・途上国の「グローバルサウス」とともに気候変動対策に取り組む姿勢を示す狙いがある。

協力パッケージの柱となるバイオ燃料は植物などから製造され、ガソリンに比べ二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない。日本が過度な石油依存から脱却するエネルギー源の多角化には欠かせず、輸入元の拡大を探っている。

ブラジルはサトウキビなどを原料とするバイオエタノールの生産で米国に次ぐ世界2位で、世界で3割ほどのシェアがある。日本のブラジルからの輸入量は2021年度はおよそ34万キロリットルと、米国から輸入量の6割ほどで増やす余地は多い。

航空分野ではCO2削減規制を背景に再生航空燃料(SAF)への需要も高まっている。バイオエタノールをSAFの原料に活用する研究も進んでおり、民間レベルでブラジルと開発協力を促す。

バイオ燃料を巡っては日本企業の対ブラジル投資が進む。トヨタ自動車は3月、ブラジルで30年までに110億レアル(およそ3300億円)を投じると発表した。エタノール燃料で走行できるフレックス燃料ハイブリッド車(HV)の小型車を25年から生産する。

同社のサンパウロ州の工場を拡張し、30年までに新たに1万人ほどの直接・間接雇用を生み出すという。三井物産もセルロースなどをブラジルで生産し、サプライチェーン(供給網)づくりを目指す。

日本政府は21年策定の第6次エネルギー基本計画でバイオエタノールなどについて「国際的な導入動向などを踏まえ導入のありかたを検討する」と提起した。ブラジルとの協力強化もその一環にあたる。

ブラジルにとっては環境への配慮と経済成長を同時に模索しており、技術力を持つ日本との連携には利点がある。

ルラ政権は農業などの支援策としてCO2削減への融資などを発表した。ガソリンに入れるエタノールの混合比率は27.5%から30%に高め、サトウキビ由来のエタノール産業も強化していく。

ルラ氏はアマゾンの自然保護も訴える。協力パッケージでもアマゾン地域の環境や持続可能な農業に向けた投資も確認する。

ブラジルは30年までの森林伐採ゼロを目標に、違法伐採の取り締まりや農業の生産性向上に取り組む。熱帯雨林保護の原資となる「アマゾン基金」への出資を集めており、日本は2月にアジアで初めて300万ドルを投じた。

日本の首相がブラジルを訪れるのは2016年の安倍晋三首相以来8年ぶりだ。首相は24年初めにブラジル訪問を調整したが、自民党派閥の政治資金問題への対応などで取りやめていた。

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