自民党総裁選の各候補が、防災対策やエネルギー政策の推進などを理由に、中央省庁の新設・再編案を次々と打ち出している。厚生労働省の分割案など、たびたび浮上しては立ち消えになった構想もあり、実現可能性などの検証は欠かせない。だが、総裁選の討論会では「省庁再編」の意義や問題点に関する論戦が深まっているとは言い難い。(川田篤志)

自民党総裁選に向け、政策発表の記者会見をする石破茂元幹事長=2024年9月10日、衆院第1議員会館で(佐藤哲紀撮影)

◆石破氏「防災省は必要」、小林氏「新省庁は必要ない」

 「防災省は必要だ」。石破茂元幹事長は20日、松江市で開かれた討論会でこう強調した。石破氏は、防災担当部局を中心にした現在の体制では、頻発する大規模災害への対応が不十分だと主張。人員や予算を強化した上で「防災省(庁)」を創設する構想を描く。  ただ、政府は2015年、平時から統一的に危機管理を担う組織について「積極的な必要性は見出しがたい」と結論付けた。小林鷹之前経済安全保障担当相は「司令塔機能の強化は重要だが、災害対応は首相や官房長官を基軸に判断する。新省庁は必要ない」と反論する。

自民党総裁選 各候補が主張する「省庁再編」案

◆茂木氏「エネルギー・環境省(GX省)」創設を

 茂木敏充幹事長は「エネルギーの安定供給と脱炭素化を一体的に進める必要がある」と訴え、資源エネルギー庁と環境省を統合する「エネルギー・環境省(GX省)」の創設を唱える。  ただ、東京電力福島第1原発事故の反省から、原発の推進と規制を分離するため、12年に環境省の外局として原子力規制委員会が発足した経緯がある。原発を推進する資源エネルギー庁と統合されれば「規制と推進がセットになるので反対だ」(自民中堅)との声が早くも上がる。

自民党総裁選に向け、所見を発表する茂木敏充氏=9月12日、東京・永田町の自民党本部で(佐藤哲紀撮影)

◆「実現すれば『成果』 政治家にメリット」と専門家

 学習院大の藤田由紀子教授(行政学)は「省庁再編案は、各候補が力を入れたい政策テーマを端的に表現でき、仮に実現できれば『成果』としてアピールできるなど、政治家にとってメリットが多い」と説明。その上で「組織改編には費用や時間、労力もかかる。専門家も入れて実効性や費用対効果を精査する必要がある」と課題を指摘する。

 中央省庁の再編 行政改革に取り組む橋本龍太郎首相(当時)が1996年に1府22省庁の半減を提唱。内閣府の創設など内閣機能強化を柱とした現在の1府12省庁体制が2001年に発足した。09年には年金を巡る不祥事などが相次いだ厚労省の分割を麻生政権が検討したが、実現しなかった。最近では菅政権で「デジタル庁」、岸田政権で「こども家庭庁」と「内閣感染症危機管理統括庁」が創設された。



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