自民党で「政治とカネ」の問題が後を絶たず、国民の不信感が根強い中で新総裁に選ばれた石破茂元幹事長。初の記者会見では失った国民の信頼回復と党再生を声高に訴えたが、選挙戦では、事件の実態解明のための再調査に後ろ向きな姿勢に終始し、「裏金議員」の公認問題では発言がぶれた。また、非核三原則の見直しや集団的自衛権の新たな枠組みの創設、改憲など持論のタカ派色の強い政策を推進する構えだが、国民の幅広い理解を得られるかが問われる。(井上峻輔、長崎高大)

◆旧安倍派の猛反発でトーンダウン

 石破氏は27日の会見で、政治資金収支報告書に不記載があった裏金議員を次期衆院選で公認するかを真っ先に問われたのに対して「選挙対策本部で適切に議論して判断する。公認権者である私も説明責任を果たしたい」と明言を避けた。  裏金議員の公認問題は総裁選で大きな論点となったが、そもそも口火を切ったのは石破氏だった。8月下旬の出馬会見で「公認にふさわしいかの議論は徹底的に行われるべきだ」と非公認をちらつかせたのに、旧安倍派の猛反発を受けるとすぐにトーンダウンした。

◆総裁選での評価は「原則論は言うけれど…」

 旧安倍派や旧二階派の裏金議員の支持も取り付けたいとの思惑から、他の候補と同様に曖昧な言いぶりに落ち着いた。若手議員は「結局公認するのではないか。あれだけ強硬姿勢をちらつかせていたのに、無党派の人はがっくりくる」と早くも先行きを不安視する。

自民党総裁のいすに座る石破茂新総裁=27日、東京・永田町の党本部で(佐藤哲紀撮影)

 政治改革にも意欲を示すが、総裁選を通じて「考え方や原則論は言うけど処方箋は言わない」(中堅)という評価が付きまとった。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題も真相究明に及び腰。2013年の参院選前に当時の安倍晋三首相が教団幹部と党本部で面談していたと報じられたが、再調査には否定的で、信頼回復の道のりは遠い。

◆政策面はタカ派、安保にこだわり

 政策面では、石破氏は防衛庁長官や防衛相を歴任し、安全保障に強いこだわりを持つ。例えば、北大西洋条約機構(NATO)のような集団安全保障の枠組みをつくる「アジア版NATO」の創設など、日本の防衛政策の大転換となる主張を繰り返す。

記者会見する自民党の石破茂新総裁=27日、東京・永田町の党本部で(平野皓士朗撮影)

 非核三原則のうちの「持ち込ませず」の見直しに賛同。米国の核兵器を日本で運用する「核共有」にも「非核三原則に触れるものではない」と前向きな立場を隠さない。  改憲では、党がまとめた9条への自衛隊明記など改憲4項目の実現を目指すとするものの、戦力不保持を定めた9条2項の削除が持論。「自衛隊を戦力と認めないといけない」と主張している。  米軍の法的な特権を認めた日米地位協定については「見直しに着手する」と改定に意欲的だ。在日米軍基地が集中する沖縄県が求めている重要課題だが、米国から逆にさらなる要求を突き付けられる懸念もある。石破氏は米軍基地を自衛隊との共同管理にすべきだと訴えており、沖縄の負担軽減につながる保証はない。 

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