衆院本会議で所信表明演説をする石破首相(4日)

石破茂首相は4日、衆参本会議で就任後初となる所信表明演説に臨んだ。「賃上げと投資がけん引する成長型経済」の実現に向けて、物価高を上回る賃金上昇や官民投資の加速に取り組む姿勢を示した。経済成長につながる規制緩和など「改革」や痛みを伴う「負担」への言及は乏しかった。

所信表明演説は首相指名選挙の後などに首相が衆参両院の本会議で、政権の重点政策や基本方針を説明する。首相は7日から衆参両院で各党の代表質問に答える。

演説は総裁選公約を踏まえ5つの「守る」を柱とした。①ルール②日本③国民④地方⑤若者・女性の機会――を挙げた。経済政策では「日本経済の未来を創り、守り抜く」と主張した。

首相は「デフレ脱却を最優先に実現するため『経済あっての財政』との考えに立った経済・財政運営を行う」と述べた。経済を立て直しつつ「財政状況の改善を進める」とも触れた。

「経済あっての財政」は岸田文雄前首相が2021年に初の所信表明演説で使った言葉を踏襲した。財政運営や金融緩和といった基本路線に急激な転換はないと印象づけ、市場の不安を払拭する狙いだ。

日銀の追加利上げを容認し財政規律を重視する首相の過去の発言が注目され、就任前後の株式市場や円相場の不安定な動きにつながった経緯がある。

演説は日本経済について「コストカット型を続けてきた『失われた30年』とコロナ禍の苦難の3年間を乗り越えて、賃金もようやく上がるようになってきた」と分析した。

国内総生産(GDP)の5割超を占める個人消費の回復を重視する姿勢を強調した。「国民が安心して消費してもらえる経済になるまでは道半ばだ」と指摘した。

消費回復には物価上昇を上回る賃上げが欠かせない。首相は最低賃金の全国平均1500円を達成する時期の目標は30年代半ばから20年代に前倒しすると言明した。

賃上げに必要な生産性向上のための施策としてリスキリング(学び直し)など人への投資の強化、事業者のデジタル環境整備などを挙げた。「賃上げと投資がけん引する成長型経済」の実現に向けて経済対策を早急に策定すると言及した。

物価高対策として低所得者世帯への支援にも取り組む。衆院選後に経済対策をまとめ、財源の裏付けとなる24年度補正予算案を編成し成立を目指す。

岸田政権の「資産運用立国」の政策を引き継ぐと明言した。貯蓄から投資への流れを着実なものとして国民の資産形成を後押しする。企業の設備投資を念頭に「投資大国」の実現もうたった。

肝煎りの地方創生に関する演説に時間をかけ、政権の重点政策にする方針を明確にした。「地方こそ成長の主役」だと掲げた。地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増する目標を据えた。

24年度当初予算ではデジタル田園都市国家構想の交付金として1000億円を計上した。同構想の実現会議を発展し「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設する。

総裁選で論点となった規制緩和や労働市場改革に関する発言は限定的だった。

「ライドシェア」に関しては「地域交通は地方創生の基盤だ。全国で『交通空白』の解消に向け、移動の足の確保を強力に進める」との表現にとどめ、タクシー会社以外の事業者を含めた全面解禁を巡る方向性は示さなかった。

持論の北大西洋条約機構(NATO)のアジア版構想や日米地位協定の改定などは演説に盛り込まなかった。防衛力強化の財源に充てる増税の開始時期も語らなかった。

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