自民党総裁選は、長く非主流派だった石破茂元幹事長が勝利し、首相に就任。立憲民主党代表選も野田佳彦元首相が勝ち、次期衆院選は今月27日投開票と定まった。これらの評価と、今後予想される動きを久米晃さんに読み解いてもらった。

◆言ったことを必ずやるのが石破さんの持ち味なのに

 ―候補者9人の激戦を制したのは石破さんでした。  「石破さんになると、漠然とですが思っていました。ただ、今回は候補者が推薦人20人を集められるかばかりに焦点が当たって、それぞれがどういう国をつくりたいのか、国民はほとんど分かりませんでした。そこが一番の問題です」  ―党人事では麻生太郎元首相が最高顧問、菅義偉元首相が副総裁に起用されました。そういうことを国民が石破首相に期待していたとは思えません。史上最弱と言ってもいい党内基盤が原因でしょうか。  「史上最弱と言いますが、総裁選も5回目です。本来なら、もっと事前に準備していてしかるべきなのに、兵隊も軍師も参謀もいない。だから麻生さんや菅さんなどに頼らざるを得なかった…という時点で、仕方ないことですが、少し残念な気がします」

久米晃(くめ・あきら) 1954年生まれ。愛知県東浦町出身。選挙・政治アドバイザー。業界紙の記者を経て80年、自民党職員に。2002年から選対事務部長、11年党事務局長。19年に定年退職。選挙の実務経験が豊富で、選挙に精通していることで知られる。

 ―首相は予算委員会を開かずに衆院を解散しそうです。以前は、新首相には国民に衆院選の判断材料を提供する責任があり「本当のやりとりは予算委員会だ」と話していました。  「言っていたことと違いますよね。石破さんの持ち味は、言ったことを必ずやるということ。そういう政治を目指しているのが政治家・石破茂に対する信頼じゃないですか。だから、言ったことを簡単に覆しちゃ駄目なんです。やらないのなら、きちんと自分の言葉で国民に説明しないといけない」

◆「敵に塩を送るな」…挙党態勢の乱れは残念

 ―総裁選で戦った高市早苗さんや小林鷹之さんに、ポストを打診して断られました。  「手勢がないわけだから、戦った相手も含めて挙党態勢をつくるのは当然ですが、総裁選の候補者9人のうち入閣したのは林芳正官房長官(再任)と加藤勝信財務相だけ。挙党態勢とはほど遠い結果です」  ―なぜそんなことに。  「有力な支援者がいない内閣は短命になりがちです。また、落選候補の一部に、『敵に塩を送るな』的な意見もありますが、これまでの自民党的でない風潮は残念です」  ― 一方、立民は野田さんが新代表に。「石破対野田」の構図をどう見ますか。  「思考回路が同じで、似通った部分があります。石破さんは、自民党内で野党的な立場だった。野田さんは、野党の中では非野党的なところがあります。だから石破さんは、野田さんにすきを与えるようなことをやっちゃうと大変ですね。『あなた、言ってたことと違うでしょ』と」

あいさつ回りに向かう石破茂首相(中央)=10月1日、国会で(池田まみ撮影)

 ―予算委員会を開かずに衆院を解散するとか。  「そういうことです」

◆より多くの人を巻き込んでいけるかどうかが大切

  ―石破首相は、歴代首相でだれに似ていますか。  「うーん。手勢手駒がいない首相って見たことがない。強いて言えば、海部俊樹さんですかね。トップに立つリーダーには側近や熱烈な支持者が必要だけど、石破さんはそういうものを育ててこなかった。首相になった以上、そこを固めていかないと、すぐ足をすくわれちゃいます。今回、執行部に入らなかった人たちがじっと見ているわけじゃないですから」  ―ここ数代の首相は、熟議を尽くさずに法律を成立させるなど、「権力は抑制的に行使する」という不文律を踏み外してきたように見えます。石破首相は大丈夫でしょうか。  「私は、政治って包容力だと思っています。つまり、敵を少なくして、より多くの人を巻き込んでいけるかどうかがトップにとって必要なことなんです。政治家にはみんな、後ろにたくさんの国民がいる。米国みたいに『敵か味方か』と分断するような手法をとったら、多くの国民の支持は得られない。より多くの国民の支持を得られるようにするのが、日本的な政治のあり方だと思います」

立憲民主党の野田代表(右)と握手する石破首相=10月1日、国会で(木戸佑撮影)

 ―衆院選は、どんな選挙戦を期待しますか。  「政治家というのは、夢を売ってなんぼの商売です。公約には立派なことが書いてありますが、国民は政治家の言葉や普段の行いを見聞きして『この人が言うのなら間違いない』『この人に将来を託そう』という気になるものです。だから、前言を翻したり、きちっと説明しなかったりすると世論の支持が得られなくなります」   ◇  ◇ <久米晃が解く 政界の実相>  選挙・政治アドバイザーの久米晃さんに、時々刻々の政治の動きを解説してもらいます。久米さんは約40年にわたって自民党職員を務め、バッジをつけた国会議員とは違う立場から、政治の動きを見続けてきました。特に選挙の実務経験が豊富で、政界の裏も表も知り尽くした人です。豊富な知識や経験を基に、今の政治のあり方に警鐘を鳴らしてもらいます。 

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