大統領選でハリス副大統領が敗れ、「初の女性大統領」が誕生しなかった米国と同様に、日本も女性首相はいまだにゼロだ。自民党総裁選では、高市早苗前経済安全保障担当相が決選投票に残ったが、ハリス氏と比べて女性の期待が高かったとは言い難い。女性首相の誕生に必要な条件や意義は何か。三重大の岩本美砂子名誉教授に聞いた。(大杉はるか)

8月、米シカゴの民主党大会で、大統領候補の指名を受諾し、演説するカマラ・ハリス氏=鈴木龍司撮影

 ―ハリス氏の敗因は。  「ハリス氏はエリート女性なので、反感はあると思う。『女性を大統領に』との主張を抑えたが、女性の人種の多様性に配慮することができなかった」  ―ハリス氏は人工妊娠中絶禁止を批判し、女性の権利を主張した。  「白人男性の貧困層は、民族的マイノリティーになることを恐れ、中絶反対という発想にもなる。特に米国政治では人工妊娠中絶は大きな問題で、投票行動に影響する」  ―高市氏も首相の座を逃した。  「高市氏は、フェミニストのハリス氏とは違う。選択的夫婦別姓導入に反対で、皇位継承も男系男子を主張し自民党内でも右寄り。(社会党委員長の)土井たか子氏が活躍したころは『女性は平和でクリーン』なイメージがあったが、今は『女もいろいろある』となった。女性なら誰でもよいのかという議論は、サッチャー英首相のころからある」  ―女性首相の意義は。  「層としての女性政治家を見れば、男性よりジェンダー平等意識があって、生殖の自由や性暴力対策を真剣に考えている。誰でもよいというわけではなく、女性の権利も考えられる女性首相が望ましい」

女性政治家について語る岩本美砂子三重大名誉教授=8日、名古屋市中村区で(中森麻未撮影)

 ―その条件は。  「現役で子どもを産んだ議員は園田天光光氏(てんこうこう)が初めてで、その次は2000年の橋本聖子氏まで50年かかった。女性が産み育てながら議員になる環境がなかった。90年代後半に、政官業すべてで女性を締め出している構造を論文に書いたが、今も変わっていない。国会も政党も長時間労働を変える必要がある。日本維新の会の馬場伸幸代表が『24時間選挙のことを考え、実行できる女性は少ない』と発言したが、その選挙制度がおかしい」  ―女性首相はいつごろ誕生するか。  「キャリアを積み上げて首相になるなら10年、20年はかかるのでは。少数与党になった自民党が、小池百合子東京都知事などを『飛び道具』として担ごうとする可能性はある」

 岩本美砂子(いわもと・みさこ) 1957年、広島県尾道市出身。1980年、京大法学部卒。名古屋大法学研究科満期退学。三重大講師などを経て、1996年から同大人文学部教授。2022年に定年退職。専門は政治学、女性学。著書に「百合子とたか子 女性政治リーダーの運命」(岩波書店)など。



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