兵庫県明石市の前市長で衆院議員の経験もある泉房穂さんに、「庶民的な立場からの本音トーク」で、政界に直言していただきます。

◆与党の過半数割れの状況を前向きに

 今回は衆院選を受けた話です。キーワードは「新しい政治の始まり」。与党の過半数割れは「数合わせ」の政治から、国民を向いた政策を実現する「政策合わせ」の政治に転換するチャンスだと思っています。

衆院本会議で第103代首相に指名された自民党の石破茂総裁(中央)=11日、国会で(浅井慶撮影)

 衆院は2012年以降ずっと自民党の単独過半数。政策は国民の見えないところで自民党が決めれば決まってしまう状況でした。  予算案や法案を可決するには過半数が必要です。与党が過半数に達しなかった以上、予算案や法案ごとに各党と内容を擦り合わせることが不可欠になります。まさに数合わせから政策合わせへの転換点を迎えたのだと、今の状況を前向きにとらえています。

◆熟議を尽くす環境が整った

 与党が調整をする相手は今のところ国民民主党と言われていますが、選択肢は幅広い。論点は単なる数合わせでやるか、政策合わせをするかです。国民民主は今後の選挙を考えると自公に擦り寄りすぎるのは難しい状況なので、個々の政策ごとに対応する可能性が高い。政策をオープンな場で国民に分かる形で議論するのが望ましい。選挙後に政策の議論が始まるのは政治の新しい風景です。

党首会談に臨む自民党総裁の石破首相(右)と立憲民主党の野田代表(左)=11日、国会で(佐藤哲紀撮影)

 衆院の委員長ポストの割り振りで、立憲が予算委員長と憲法審査会長を手に入れたのも意味が大きい。もう予算などの強行採決はできません。その代わり、野党側も責任を負う形になりますから、審議を引き延ばしたり、批判だけしたりするような無責任なこともできなくなる。熟議を尽くす環境が整ったと思います。

◆各党の支持傾向は…

 次に個々の政党の状況です。議席数に関する報道が目立ちますが、私は比例代表の得票数に注目するべきだと思っています。小選挙区の特性から大政党は議席数で得をしますが、各党の支持傾向を見るには比例のほうがよいのです。  前回と比べて国民民主とれいわ新選組が大幅に増やし、立憲は横ばい。自公と維新、共産、社民は減らしました。これらの数字から3点読み取ることができます。一つは裏金に象徴される金まみれの政治はノーという民意。二つめは国民目線の政策を求める声。三つめは前記二つの問題にどの政党も答えていない現状を反映した低投票率です。  「裏金ノー」の国民の意思は自民、公明を直撃し、両党の得票数は激減しました。立憲は裏金批判はしましたが、国民を向いた政策をほとんど打ち出せなかったので横ばい。立憲は議席数は増やしましたが、得票を増やしていないので勝ったとは言えず、横ばいが正しいと思います。

◆「終わりの始まり」 反省なしの自民に未来はない

 一方、国民を向いた政策を打ち出した国民民主とれいわが激増。ただ、自民、立憲の二大政党が国民を向いた政策を出せなかったので期待は高まらず、投票率は戦後3番目の低さにとどまりました。  裏金批判の世論は続いていますから、大政党が国民を向いた政策を展開して期待が高まれば投票率は上がる可能性がある。2005年の郵政選挙、2009年の民主党政権誕生時は投票率が上がりました。期待感が高まれば政治の風景は一瞬で変わるだろうと思います。  個別に見ると、自民は裏金ノーの民意を突きつけられたのに反省の色は見えません。こんなに負けて反省しない自民に未来はない。「終わりの始まり」だと思っています。政策を巡って割れていくのではないでしょうか。崩壊過程に入ったと思っています。

◆自公が躍進する時代はもう来ない

 立憲は絶好の好機だったのに横ばいは実質的な負けに等しい。裏金批判しか言わず、国民に刺さる政策を打ち出せなかった。野党候補を一本化して大同団結する戦略にも欠けていた。厳しい言い方ですが、今のところ反省も方針転換する覚悟も見えない。

党首会談に臨む自民党総裁の石破首相(右)と国民民主党の玉木代表=11日、国会で(佐藤哲紀撮影)

 国民民主は今回ははねたけれど、この状況が続くか不透明です。与党に擦り寄りすぎれば参院選は勝てない。浮かれるのではなく、中長期の戦略が必要です。  公明は緩やかに力が弱まっていると感じます。自民と抜き差しならない関係になった状況で、ともに落ち込んでいますから、自公が躍進する時代はもう来ないと思います。

◆「永田町の人たちは新しい政治を」とのメッセージだ

 自民、公明以上に負けたと言えるのが維新です。大阪の19小選挙区では勝ちましたが、比例は37%の減。大阪限定政党に戻り、かなり厳しい状況です。逆に言うと維新と立憲、国民民主が組める状況が生まれたとも言えます。維新、立憲、国民民主の3党で選挙区をすみ分けられれば、状況は相当変わる。  共産党は立憲に気を使わず候補者を立てたけれど比例は増えなかった。政策的には国民民主、れいわと共産が伸びてしかるべきだったけれど、歴史のある政党の宿命で、新鮮なメッセージとして届かなかった。  衆院では古い政治から新しい政治への模索が続くでしょう。2012年から止まっていた政治が動き出し、わくわくします。  衆院選の結果は「永田町の人たちは一回考え直して新しい政治をしなさい」という歴史のメッセージだと思います。今後の政治を数合わせではなく、政策合わせの目で見ていきたいですね。

泉房穂(いずみ・ふさほ) 1963年生まれ。兵庫県出身。NHKディレクターなどを経て司法試験合格。2003年衆院選で当選。2011年から明石市長を12年務め、中学生の給食費など「5つの無料化」を市独自で実現した。



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