猛スピード・飲酒で事故も「危険運転致死傷罪」適用されない?
「危険運転致死傷罪」をめぐっては、猛スピードでの運転や飲酒運転で起きた事故で、裁判所が危険運転を認めなかった例も出ています。
時速146キロで衝突 4人死亡(2018年)
津市の国道で時速146キロで車を運転してタクシーに衝突し、運転手と乗客のあわせて4人が死亡し、1人が大けがをした事故では、ドライバーが危険運転致死傷などの罪に問われました。
裁判で検察は懲役15年を求刑しましたが、1審と2審はともに危険運転致死傷罪を適用せず、過失運転致死傷罪にあたるとして懲役7年を言い渡しました。
酒気帯び運転 時速105キロまで加速か 2人死傷(2020年)
福井市で酒気帯び運転の車がパトカーから追跡を受けて軽乗用車に衝突し、男女2人を死傷させた事故では、検察がドライバーを危険運転致死傷などの罪で起訴し、「時速105キロまで加速していた」などとして懲役10年を求刑しました。
しかし福井地方裁判所は「運転の制御が困難な高速度だったのか合理的な疑いが残る」として過失運転にあたると判断し、懲役5年6か月を言い渡しました。
過失運転より刑が大幅に重い危険運転 数値的な基準がない
2001年に設けられた「危険運転致死傷罪」の刑の上限は懲役20年。
懲役7年の「過失運転致死傷罪」よりも大幅に重くなっています。
対象となるのは
▽「アルコールまたは薬物の影響で正常な運転が困難な状態」など
▽制御困難な高速度での走行
▽赤信号の無視
▽あおり運転のような「妨害行為」など。
しかし、呼気中のアルコール濃度や車の速度など、数値的な基準は示されていません。
法定速度の3倍超 危険運転致死罪の適用が焦点の裁判も
大分県では県道を時速194キロで車を運転して死亡事故を起こしたとして、当時19歳の被告が危険運転致死の罪に問われた裁判が続いています。
当初検察は「走行を制御できていて、危険運転にはあたらない」と判断し過失運転致死の罪で在宅起訴しましたが、事故の遺族が2万8000人あまりの署名を提出。
当時の状況を再現して調べた検察は、おととし12月に起訴内容を危険運転致死罪に変更しています。
弁護側は争う姿勢を示していて、法定速度の3倍を超える事故に危険運転致死罪が適用されるかどうかが焦点となっています。
【リンク】194キロ死亡事故 初公判 弁護側「危険運転致死罪あたらず」
法務省が検討会設置 遺族など”国民の常識にかなった運用を”
「国民の常識とかけ離れている」。
与党内からも批判が出ていることを踏まえ、法務省は2月に検討会を設置し、危険運転致死罪を適用する要件について見直しが必要か議論を進めていました。
3月に行われた事故の遺族などへのヒアリングでは、「危険運転の適用基準が抽象的なので、明確化するなど国民の常識にかなった運用をしてほしい」など、法律の改正を求める声が相次いでいました。
そして13日、検討会が報告書の素案をまとめました。
危険運転致死傷罪の適用要件を、より明確にするために今後、とり得る方策などが示されています。
その内容です。
「飲酒運転」
アルコールの影響を受ける個人差や心身の状況にかかわらず、一律に危険運転致死傷罪の要件を満たすと言える数値基準を設けることが考えられるとしています。
そして検討会で出た意見として、体内アルコール濃度の検査で、呼気1リットルにつき
▽0.5ミリグラム以上、
▽0.25ミリグラム以上、
▽0.15ミリグラム以上
とする選択肢もあり得ると付記しています。
「高速度での運転」
一定の速度以上で車両を走行させる行為を、一律に対象とすることが考えられるとし、こちらも、規定された最高速度の2倍や1.5倍を数値基準とする意見も検討会の中で出されたことをあわせて記しています。
「ドリフト走行」
意図的にタイヤを滑らせたりする運転行為なども、高い危険性や悪質性を有するケースがあるとして、適切な範囲で危険運転致死傷罪の処罰対象にする考え方を明記しています。
「ながら運転」
スマートフォンなどを使いながら運転する「ながら運転」については、緊急性の高い連絡のほか、道路の渋滞情報を確認など、必ずしも高い悪質性が認められるとは言えない場合もあるとして、処罰対象にすることは慎重な検討が必要だとしています。
このほか素案では、罰則をめぐる検討の経過も明記されています。
「中間にあたる処罰規定」
「危険運転致死傷罪」と「過失運転致死傷罪」の、中間にあたる処罰規定の創設についても議論されましたが、罪の類型をさらに細かくするのは難しく、慎重に検討する必要があるとしています。
「法定刑の引き上げ」
危険運転致死傷罪の法定刑の引き上げについても、危険運転致死傷罪が傷害罪や傷害致死罪に準じる処罰として設けられた経緯に触れ、これらの2つの罪より重い法定刑への引き上げには慎重な姿勢を示しています。
検討会は、この案をもとにさらに協議を重ねた上でできるだけ早期に最終報告をまとめ、法務省に提出する方針で、その後、法改正の必要性などについての議論が進められる見通しです。
今後予想される数値基準の議論 専門家は
昭和大学医学部 城祐一郎教授(元検事・危険運転致死傷罪について研究)
「被害者や遺族の方が納得できるよう、専門家の意見を聞くなどして科学的な裏付けが取れるようなものをつくるべきだ。例えばアルコールについて言えば、どんな人でも一律に、明らかに運動能力や判断能力が低下する基準はあり得る。新たな被害を防ぐためにもできる限りスピーディーに進めていもらいたい」
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。