岸田文雄首相は11日午前(日本時間12日未明)、ワシントンの米議会の上下両院合同会議で「未来に向けて〜我々のグローバルパートナーシップ〜」と題して演説した。演説は英語で、和文は外務省の仮訳。

議長、副大統領、連邦議会議員の皆様、ご来賓の方々、皆様、ありがとうございます。日本の国会では、これほどすてきな拍手を受けることはまずありません。

そして、ギャラリーにいる妻の裕子をご紹介します。私が裕子と結婚したという一事をもって、私の決断全てが正しいものであると、皆様に信用いただけるのではないでしょうか。

民主主義の本丸であるこの議場で、そして米国国民の代表である皆様の前で、こうしてお話しできることを大変光栄に存じます。

9年前、私の盟友であった故安倍元総理が、まさにこの壇上で「希望の同盟へ」と題した演説を行いました。私は当時、安倍内閣の外務大臣として両国間の絆を目の当たりにし、深く感銘を受けました。

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幼少期、ニューヨークで生活

幼少期からずっと、私は米国とのつながりを感じてきました。おそらく、小学校の最初の3年間をニューヨークのクイーンズにある公立小学校であるPS20とPS13で過ごしたからでしょう。日本人は私一人でしたが、同級生たちは私を親切に受け入れてくれ、おかげで新しい文化に溶け込むことができました。

そうしてニューヨークにやって来た私たち家族は、1963年の秋から数年間にわたり、米国人と同じような生活を送りました。父は通商担当官として、職場のマンハッタンまで地下鉄で通っていました。

私たちは、(大リーグの)メッツやヤンキースを応援し、コニーアイランドでホットドッグをほおばり、休日には、ナイアガラの滝や、ここワシントンまで出かけたものです。

そして今も思い出すのは、日本の少年にとってはもの珍しく面白かったアニメ「フリントストーン」。今でもあの番組を懐かしく感じます。ただ「ヤバダバドゥー」の意味を日本語訳することはできませんでしたが。

あれから60年の歳月を経て、クイーンズの善良なる皆様にメッセージがあります。私の家族と私をあれほど温かく迎えてくださって、ありがとうございました。あの時代のことを、私は一時も忘れたことはありません。

だからこそ、私は本日、米国の長く、親しい友人として、皆様にお話しさせていただきます。

米国立公園局が、(ワシントンのポトマック川沿いの桜の名所)タイダルベイスンの再生プロジェクトを実施中と承知しています。日本は友情の証しとして、米国の建国250周年に先立ち、タイダルベイスンに植えられる予定の桜250本を贈呈させていただきます。

当時のことを覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、64年の世界博覧会は、クイーンズで開催されました。シンボルは巨大な球体のモニュメントで、テーマは「相互理解を通じた平和」でした。

平和には「覚悟」が必要

しかし、今の私たちは、平和には「理解」以上のものが必要だということを知っています。「覚悟」が必要なのです。

And yet we also know that peace requires more than understanding. It requires resolve.

米国は、経済力、外交力、軍事力、技術力を通じて、戦後の国際秩序を形づくりました。自由と民主主義を擁護し、日本を含む各国の安定と繁栄を促しました。そして必要なときには、より良い世界へのコミットメントを果たすために、尊い犠牲も払ってきました。

およそ人類は、権威主義的な国家に抑圧されるような、つまり、追跡され、監視され、自己の内心の表現を否定されるような生き方はしたくない――米国の政策はそのような前提に基づいていました。

米国は、自由こそが人類にとっての酸素のようなものだと信じていました。

一部の米国民、世界における役割に疑念

この世界は、米国が引き続き、国際問題においてそのような中心的な役割を果たし続けることを必要としています。しかし、私は今日、一部の米国民の心の内で、世界における自国のあるべき役割について、自己疑念を持たれていることを感じています。

The world needs the United States to continue playing this pivotal role in the affairs of nations. And yet, as we meet here today, I detect an undercurrent of self-doubt among some Americans about what your role in the world should be.

この自己疑念は、世界が歴史の転換点を迎えるのと時を同じくして生じているようです。ポスト冷戦期は既に過ぎ去り、私たちは今、人類史の次の時代を決定づける分かれ目にいます。

米国が何世代にもわたり築いてきた国際秩序は今、新たな挑戦に直面しています。そしてそれは、私たちとは全く異なる価値観や原則を持つ主体からの挑戦です。自由と民主主義は現在、世界中で脅威にさらされています。

気候変動は、自然災害、貧困、そして地球規模での避難民を引き起こしています。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)では、全人類が苦しみました。人工知能(AI)技術の急速な進歩により、AIの本質をめぐり、その将来性と危険性とのはざまで、攻防が繰り広げられています。

経済力のバランスは変化しています。グローバルサウス(新興・途上国)は、課題と機会の双方に対処する上で一層重要な役割を果たし、より大きな発言力を求めています。

議員らが立ち上がって拍手を送る場面もみられた(11日、ワシントン)=AP

中国、国際社会の平和と安定に挑戦

日本の近隣諸国に目を向けると、現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向は、日本の平和と安全だけでなく、国際社会全体の平和と安定にとっても、これまでにない最大の戦略的な挑戦をもたらしています。

Turning to Japan's own neighborhood, China's current external stance and military actions present an unprecedented and the greatest strategic challenge, not only to the peace and security of Japan but to the peace and stability of the international community at large.

中国からのこのような挑戦が続く中で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序や、平和を守るというコミットメントは、引き続き決定的な課題であり続けます。

広島出身の私は、自身の政治キャリアを「核兵器のない世界」の実現という目標にささげてきました。核拡散防止条約(NPT)体制の再活性化と、国際的機運の向上に長年取り組んでまいりました。

しかし、東アジアでは、核兵器拡散の差し迫った危険が存在します。北朝鮮による核・ミサイル計画は、直接的な脅威です。北朝鮮による拉致問題は、引き続き重大な問題です。

北朝鮮による挑発は、地域を越えたインパクトをもたらしています。北朝鮮は、ウクライナに対する侵略戦争を支援するための弾道ミサイルをロシアに輸出し、その結果、ウクライナの人々の苦しみを大きく増大させています。

ロシアのウクライナに対するいわれのない、不当で残酷な侵略戦争は3年目を迎えました。私がよく申し上げているとおり、今日のウクライナは明日の東アジアかもしれません。

さらに、ロシアは核による威嚇を継続しており、核兵器の惨禍が実際に再び繰り返されるのではないかと世界が懸念しています。このような現実の中で、日米同盟の抑止力の信頼性と強靱(きょうじん)性を維持するために、日米間の緊密な連携がこれまで以上に求められています。

新しい形の抑圧が、世界で見られるようになっています。デジタル技術を通じた自由の抑圧も行われています。ソーシャルメディアは検閲され、監視され、そしてコントロールされています。

経済的威圧や、いわゆる「債務のわな」外交と呼ばれる、国家の経済的依存を悪用し、武器化する事例が増加しています。このように急速に変化する困難に直面し、私たちは、私たちが共有する価値をいかに守り続けるのでしょうか。

ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国。そこで孤独感や疲弊を感じている米国の国民の皆様に、私は語りかけたいのです。そのような希望を一人双肩に背負うことがいかなる重荷であるのか、私は理解しています。

米国、一人で秩序守る理由ない

世界は米国のリーダーシップを当てにしていますが、米国は、助けもなく、たった一人で、国際秩序を守ることを強いられる理由はありません。

Although the world looks to your leadership, the U.S. should not be expected to do it all, unaided and on your own.

もちろん、米国のリーダーシップは必要不可欠です。

もしも米国の支援がなかったら、モスクワからの猛襲を受けたウクライナの希望は、どれほど前についえ去ってしまっていたことでしょう。

もしも米国の存在がなかったら、インド太平洋地域はどれほど前に、より厳しい現実にさいなまれていたことでしょう。

皆様、米国の最も親しい友人、トモダチとして、日本国民は、自由の存続を確かなものにするために米国と共にあります。それは、日米両国の国民にとどまらず、全ての人々のためにであります。

米議会の上下両院合同会議で演説する岸田首相(11日、ワシントン)=ロイター

私は現実主義者、法の支配は国益

私は、これを米国への強い愛着から述べているのではありません。私は理想主義者であると同時に、現実主義者です。自由、民主主義、法の支配を守る。これは、日本の国益です。

I am not saying this out of my strong attachment to America. I am an idealist but a realist, too. The defense of freedom, democracy, and the rule of law is the national interest of Japan.

日本国民は、これらの価値に完全にコミットしています。人権が抑圧された社会、政治的な自己決定権が否定された社会、デジタル技術で毎日が監視下にある社会を、私は我々の子供たちに残したくありません。

皆様も同じく感じておられますよね。これらの価値を守ることは、日米両国、そして世界中の未来世代のための大義であり、利益でもあるのです。

今この瞬間も、任務を遂行する自衛隊と米軍の隊員たちは、侵略を抑止し、平和を確かなものとするため、足並みをそろえて努力してくれています。

私は隊員たちを称賛し、感謝し、そして、隊員たちが両国から感謝されていることが、私たちの総意であると知っています。

「自由と民主主義」の仲間、米独りでない

「自由と民主主義」という名の宇宙船で、日本は米国の仲間の船員であることを誇りに思います。共にデッキに立ち、任務に従事し、そして、なすべきことをする、その準備はできています。

On the spaceship called "Freedom and Democracy," Japan is proud to be your shipmate. We are on deck, we are on task. And we are ready to do what is necessary.

世界中の民主主義国は、総力を挙げて取り組まなければなりません。皆様、日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています。米国は独りではありません。日本は米国と共にあります。

The democratic nations of the world must have all hands on deck. I am here to say that Japan is already standing shoulder to shoulder with the United States. You are not alone. We are with you.

日本は長い年月をかけて変わってきました。第2次世界大戦の荒廃から立ち直った控えめな同盟国から、外の世界に目を向け、強く、コミットした同盟国へと自らを変革してきました。

日本は国家安全保障戦略を改定しました。インド太平洋地域の将来の安定に関する不確実性が、私たちの政策、さらには考え方自体を変える契機となったのです。私自身、日米同盟を一層強固なものにするために、先頭に立って取り組んできました。

同盟の抑止力、かつてなく強力

2022年、日本は27年度までに防衛予算を国内総生産(GDP)の2%に達するよう相当な増額を行い、反撃能力を保有し、サイバーセキュリティーを向上させることを発表しました。今日、日米同盟の抑止力は、かつてなく強力であり、それは米国の日本への拡大抑止によって強化されています。

In 2022, we announced that we would secure a substantial increase of our defense budget by FY 2027 to 2% of GDP, possess counterstrike capabilities, and improve cybersecurity. Today, the deterrence that our Alliance provides is stronger than ever, bolstered by U.S. extended deterrence for Japan.

日本は、ロシアによるウクライナ侵略を受け、強力な対ロ制裁を実施しています。ウクライナに対し、対無人航空機検知システムを含む120億ドル(約1兆8000億円)以上の援助を表明してきました。

このシステムの供与は、北大西洋条約機構(NATO)による支援策の一環であり、そう、日本は地球の裏側にあるNATOとも協力しているのです。

さらに2月、荒廃したウクライナがこの苦難の時を乗り越えることを支えるべく、私はウクライナの経済成長と復興のための会議を主催しました。日本はこれからもウクライナと共にあります。

地政学的な状況が変化し、自信を深めるにつれ、日本は米国の最も近い同盟国という枠を超えて、視野を広げてきました。日本はかつて米国の地域パートナーでしたが、今やグローバルなパートナーとなったのです。日米関係がこれほど緊密で、ビジョンとアプローチがこれほど一致したことはかつてありません。

今日、両国のパートナーシップは2国間にとどまりません。例えば、米国、日本、韓国、オーストラリア、インド、フィリピンによる3カ国間や4カ国間の協力、さらには主要7カ国(G7)を通じた協力や、東南アジア諸国連合(ASEAN)との協力が挙げられます。

日米韓の首脳は、3カ国のパートナーシップの新時代の幕を開くため、昨夏、キャンプデービッドに集いました。

このような様々な取り組みから、多層的な地域枠組みが生まれ、日米同盟はその力を増強させる役割を果たしています。そして、同志国と共に「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指しています。

こうした努力に対し、ここ米連邦議会では、超党派の強力な支持がいただけるのではないでしょうか。

最大の対米投資国、雇用100万人創出

日本は米国のリーダーシップを信じています。そして、米国の経済を信じています。

Japan believes in U.S. leadership, and we also believe in the U.S. economy.

日本は世界最大の対米直接投資国です。日本企業は約8000億ドルを投資し、米国内で約100万人の雇用を創出しています。これらは良質な雇用であり、製造業だけで50万人の雇用を生んでいます。

Japan is the number one foreign direct investor in the United States. Japanese companies have invested around 800 billion dollars, creating almost one million American jobs. These are good jobs with half a million jobs in the manufacturing sector alone.

日本国内では、私は日本経済をけん引するために「新しい資本主義」という取り組みを推進しています。現下の課題や取り組みを成長の力へと変化させるために官民が連携しています。賃上げ、設備投資、株価。全てが30年ぶりの高い水準に達しました。

日本経済は現在、いまだかつてない大きな変化を力にして、前進しています。成長志向の日本経済は、米国への更なる投資にもまた拍車をかけることでしょう。そして、日米両国は今後世界経済を後押しし、力強い成長軌道へと導くことでしょう。

AI・量子・半導体で世界リード

つい昨日、バイデン大統領と私は、AI、量子、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギーといった次世代の新興技術の発展において、日米両国が世界をリードすることへのコミットメントを示したところです。

そしてまた、両国間の協力分野は宇宙にも広がっています。これは、明るく希望に満ちた明日への道を照らしています。1969年のアポロ11号による月面着陸のテレビ中継は、今でも私の記憶に焼き付いています。

1月に、日本の月探査機は、史上初の月面へのピンポイント着陸を達成しました。昨日、バイデン大統領と私は、(米国主導で月を有人探査する)アルテミス計画の将来ミッションにおいて、日本人宇宙飛行士が米国人以外として初めて月面に着陸することとなると発表しました。

本日は、2人の宇宙飛行士に来ていただいています。星出さん、タニさん、ご起立いただけますでしょうか。星出彰彦氏は、これまでに3回、宇宙に飛び立たれてきました。また、2021年には国際宇宙ステーションの船長を5カ月間務められました。

隣にいらっしゃるのはダニエル・タニ氏です。タニ氏は、船外活動を6回経験した日系米国人の元宇宙飛行士で、2回のミッションでは、なんと5000万マイル以上のフライトを達成しました。ものすごい大量のマイレージポイントになりますね。

星出氏とタニ氏は、宇宙における日米協力の象徴的存在です。両国は今後も、このような協力をもっともっと将来にわたって築いていきます。お二人ともありがとうございました。

最後に、一言述べて締めくくらせていただきます。日本が米国の最も近い同盟国としての役割をどれほど真剣に受け止めているか。このことを、皆様に知っていただきたいと思います。

私たちは共に大きな責任を担っています。日米両国は、平和にとって、自由にとって、そして繁栄にとって、必要不可欠な存在です。そう私は信じます。

堅固な同盟と不朽の友好誓う

信念という絆で結ばれ、私は、日本の堅固な同盟と不朽の友好をここに誓います。「未来のためのグローバルパートナー」。今日、私たち日本は、米国のグローバルパートナーであり、この先もそうであり続けます。

Bonded by our beliefs, I pledge to you Japan's firm alliance and enduring friendship. "Global Partners for the Future."-- We are your global partner today, and we will be your global partner in the years ahead.

本日のご招待、皆様のおもてなし、そして米国が世界で果たしている役割に感謝します。

議会演説全文(英文)をNikkei Asiaで読む

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