政府は15日、規制改革推進会議の作業部会でタクシー会社以外の参入を認める「ライドシェア」の論点整理のたたき台を示した。全面解禁を念頭に法整備を検討するため、乗客の安全確保やドライバーの適正な処遇などの取り組むべき課題を盛り込んだ。全面解禁に警戒が強いタクシー業界への配慮もにじんだ。
一般ドライバーによる有償送迎「ライドシェア」を4月に条件付きで解禁した。運行管理を既存のタクシー会社が担い、車両が不足している地域や時間帯に限定した。
岸田文雄首相は4月、タクシー会社以外も参入できる法整備に向けて5月中に論点整理するよう関係閣僚に指示した。6月をめどに方向性を決める。
河野太郎デジタル相は15日の作業部会で「安全性、事故時の責任、働き方の3原則の上にライドシェアの全国展開の課題がある」と言及した。
論点をまとめる上で「日本全国の移動の足の(問題の)解消ができているか見極め、できていなければ速やかに次の段階に移れるように準備をしておく、両方必要だ」と語った。
主な論点は、安全対策とドライバーの確保策の2点になる。
犯罪防止の観点では「履歴書などの自己申告で足りるのか」と問題提起した。性犯罪歴を照会できるしくみをつくり、ドライバーの適性を確認する案が浮上している。
慶大の中室牧子教授は「日本版DBSのような性犯罪歴を確実にチェックする仕組みが必要だ」と述べた。タクシー業界団体の全国ハイヤー・タクシー連合会によると日本のタクシーでも20年に20件ほどの性的暴行事件が発生した。
たたき台は第2種運転免許を持たない一般ドライバーが有償で客を乗せる「白タク」行為の撲滅も挙げた。現行法では、訪日客などが利用する仲介アプリの事業者を直接的に摘発できない点について議論した。
ドライバーの確保策を巡っては、現在タクシー運転手に課されている乗車を希望する人の引き受け義務の是非に触れた。運転手が顧客を選ぶことができれば、担い手の増加につながるとの期待がある。
たたき台では、タクシー業界への一定の配慮も示した。ライドシェアの全面解禁によって「タクシーとの共存共栄が懸念される」と指摘した。タクシーには様々な義務がある中で、利用客が多い地域や時間帯などにライドシェアが偏るのではないかとの懸念も紹介した。
作業部会に参加した国土交通省は独自の論点を説明した。4月から始まったタクシー会社が運行主体を担う限定されたライドシェアは移動手段の不足を解消するためであり「開始して間もなく、効果を現時点で評価するのは適切でない」と主張した。
マッチング率やドライバー数などを「時間をかけてモニタリングすることが必要」として、早期の全面解禁に消極的な姿勢を見せた。将来的には安全性や事故が起きたときの責任、労働条件、公平な競争条件が論点になると説明した。
弁護士の国峯孝祐氏ら複数の有識者は意見書を共同提出し、現状のライドシェアでは「移動難民の解消に限界がある」と指摘した。
「デジタル技術を徹底的に活用した真のライドシェア事業の法制度の検討を始め、来年の通常国会での法案提出を目指すべきだ」と強調した。業務委託するドライバーの最低報酬を保障する制度や、料金の自由設定などを求めた。
4月に解禁した限定的なライドシェアに関して、国交省は実施状況を公表した。東京、神奈川、愛知、京都の4都府県の一部地域と、長野県軽井沢町の計5地域で、運行回数が5日までの1カ月間で1万2600回ほど、稼働台数は2200台程度だった。
タクシー配車アプリのマッチング率は4月末〜5月上旬、東京、神奈川、愛知は全時間帯で9割を超え、導入前よりも改善した。例えば、導入前の東京の土曜日午前2時は66%だったが、導入後は99%になった。国交省は全面解禁しなくても供給が足りているとみる。
作業部会の林いづみ座長はアプリ配車だけでなく、無線配車なども含めてタクシー不足車両数を算出するよう求めた。移動の足が不足しているか、正確に確認したい考えだ。
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