「チルドレンファースト」を掲げる東京都は、18歳以下に毎月5000円を支給する「018サポート」など独自の子育て支援策を矢継ぎ早に打ち出し、話題を集めてきた。スピード感に重きを置く小池百合子知事の意向とされるが、実務を担う区市町村には「事前に相談を」などと反発や困惑もある。(三宅千智)

2023年1月4日、18歳以下に毎月5000円を支給する事業について記者団の取材に応じる小池百合子知事(三宅千智撮影)

◆事前協議なく「礼を失している」

 「あまりにも礼を失している」。世田谷区の保坂展人区長は2022年6月の定例会見で、子どもの医療費助成を巡る都の対応に憤った。  都は同年1月、中学生までだった医療費助成の対象を高校生世代まで広げる、と発表した。小中学生と同様に所得制限を設けた上で、通院1回当たり200円を自己負担とし、残りの費用を都と区市町村が折半する制度を描いたが、新たな財政負担が生じる区市町村側との事前協議はなかったとされる。  「必要な検討や調整を後回しにして、制度ありきで強引だ」。都内の首長や都議会から相次いで批判の声が上がった。都は23年度から3年間に限り区市町村分を負担することでひとまず反発は収まったが、26年度以降の枠組みは未定だ。

◆都職員への新年あいさつで突然ぶち上げ…

 「もはや一刻の猶予も許されない」。少子化への危機感を募らせる小池知事が「018サポート」の実施をぶち上げたのは、23年1月4日の都職員への新年あいさつでのこと。複数の関係者によると、区市町村はおろか、都庁内でも一部の幹部しか知らされていなかった。  華々しい発表の裏側では問題が生じていた。支給対象者を特定するには区市町村の協力が不可欠だが、事前相談がなく多くの自治体が難色を示したという。  結局、都は地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に業務を委託することにしたが、約17万人への案内チラシの誤送付が発生した。スマートフォンなどオンラインでの申請手続きが複雑で分かりにくいと、多くの苦情も寄せられた。

◆「知事が決断して行った」と示すため?

東京都の子育て支援018サポートのチラシ

 役所間では当たり前とも言える根回し。なぜ、なおざりにされてきたのか。ある都幹部は語る。  「小池知事はスピード感を重視し、そこが都民からも評価されている。事前相談をすれば『すぐには無理だ』とか言われかねないし」。別の幹部は「『知事が決断して行った』と示すためだ」と解説した。  都が24年度予算で打ち出した学校給食費補助事業でも調整不足が表面化した。多摩地域では都の半額補助があっても無償化できない自治体が複数ある。町田市の石阪丈一市長は「どんなに少なくとも1年以上の協議の期間を設けるべきだ」と抗議した。都内のある首長は「互いに仕事を円滑にやるには十分な時間と協議が必要」と指摘し、苦々しい表情でつぶやいた。「われわれは都の下請けじゃない」

◆「区市町村と謙虚に協議しながら政策推進を」

 元都副知事の青山佾(やすし)・明治大名誉教授の話 都がスピード感をもって決定、実行するドラスチック(思い切った)なやり方も時には必要だが、個人情報を持っているのは区市町村。ドメスティックバイオレンス(DV)など、家庭の事情は十人十色で、給付施策などを都だけでやろうとするのは限界がある。区市町村と謙虚に協議しながら政策を進める姿勢が基本だ。

 子どもの医療費助成 東京都が1994年に3歳未満を対象に始め、その後、段階的に年齢を拡大。所得制限(4人家族で年収約960万円)を設けた上で、未就学児は自己負担分を都と区市町村が半額ずつ助成。小中学生と高校生世代は、自己負担額のうち200円を本人が負担し、残りを都と区市町村が折半する。高校生世代については2023年度から3年間、区市町村分の助成費用を都が負担している。区市町村によって、所得制限や自己負担を独自になくしている自治体もある。

 ◇  近づく東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)。3選出馬が有力視される小池知事が依然として態度を表明せず、自民党や立憲民主党など主要政党が候補の擁立に至っていない中、いまだ構図は見えていないが、2期8年にわたる小池都政の評価が争点となるのは間違いない。新型コロナウイルス禍、明治神宮外苑再開発への対応をはじめ、さまざまな行政課題と都政がどう向き合ってきたかを検証する。(随時掲載) 

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