記者会見する阪大の野々村祝夫教授㊧ら(27日、大阪府吹田市)

大阪大学の野々村祝夫教授らの研究チームは27日、治りにくいタイプの前立腺がんを治療する薬の候補を開発し、6月から初期段階の臨床試験(治験)を開始すると発表した。放射線の一種であるアルファ線を出す放射性同位体を使う。2026年度をめどに最終段階の治験を終えて実用化を目指す。

前立腺がんは男性に多く発症し、国内では19年に約9万5000人が新たに診断された。男性ホルモンを遮断する薬による治療が一般的だが、患者の1割程度は治療するうちにこのホルモン剤が効かなくなる。研究チームの開発した治療薬はこうした難治性と呼ばれる治りにくい前立腺がんを対象とする。

新しい治療薬は分子中に「アスタチン」という元素の放射性同位体を含む。静脈注射で体内に入ると前立腺がんの細胞の表面に多く見られる特殊なたんぱく質に結合し、放射するアルファ線でがんをたたく。

既に実用化されているベータ線による治療よりもがんをたたく力が強い。また、アルファ線はベータ線よりも飛距離が短いため、専用の病室が不要だという。

アスタチンは阪大や、連携する理化学研究所が持つ加速器を用いて国内で製造でき、薬のほかの原料も国内で調達できる。治療薬も阪大内の施設で製造できる。実用化すればアスタチンや薬がより多く必要になるため、企業などと連携し国内に複数の製造拠点を設ける方針だ。

阪大の渡部直史講師は「同様の治療はこれまで国内で承認されておらず、海外に渡って治療する人も多かった。早期に実用化できるよう尽力したい」と述べた。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。