コンテナ型の分散型データセンター(写真=トリプルワン提供)

半導体開発スタートアップTRIPLE-1(トリプルワン、福岡市)は、デジタルインフラ構築において高い性能を発揮する半導体の設計開発に注力している。「半導体市場が大きく変動する中で、10年、20年先の未来の姿から逆算して、マーケットインで事業を進めている」。トリプルワンの大島麿礼副社長は同社の特徴についてこう話す。

工場を持たずに半導体を設計開発するファブレス企業として16年に創業した同社に世界から注目が集まったのは18年のこと。TSMCの当時最先端だった7ナノの微細化技術を活用したビットコイン用のチップ「KAMIKAZE(カミカゼ)」を開発。従来の専用半導体と比べ4倍の処理速度を実現する一方で、50%以上省電力化した。

世界が驚いたビットコイン向け半導体

中国の競合企業が16ナノでしか作れていなかったビットコイン向け半導体を7ナノで、かつ中国以外の企業が作ったことに世界中の業界関係者が驚いたという。

汎用的な半導体を設計してチップを外販するビジネスモデルを描いたが、5ナノ半導体の開発では設計までは済ませたものの活用先が見込めず実用化を断念。その後ニーズを見いだしたのが、デジタルインフラだ。

東京電力ホールディングスの送配電部門である東京電力パワーグリッド(PG)や同社傘下で電力の需給管理を手掛けるアジャイルエナジーX(東京・港)と手掛けるのが、余剰となった太陽光発電などの電力を「分散型データセンター」に活用する取り組み。ビットコイン向けで培った省エネ半導体の技術を応用した。

太陽光など再生可能エネルギーは天気の影響も受けやすく発電量が安定しない。発電しても「送配電網」に空きがなければ送電できず、余剰分は無駄になっていた。

電力の需要量を供給量に合わせる「デマンドレスポンス」の一環として柔軟な運用をするコンテナ型データセンターを構築(写真=トリプルワン提供)

そこで余った電力の活用手法として注目したのが、コンテナ型の分散型データセンターだ。分散型であれば電力を地産地消で使い切ることもできるようになる。膨大な量のデータを高速で処理する小型のデータセンターを全国各地に多数設置し、それらを同時に動かし連携させることで、巨大なコンピューターシステムとして機能させ、外部から演算処理を請け負うなどのビジネスに活用する。

こうした取り組みでは汎用的なGPUやCPU(中央演算処理装置)では電力効率が悪い。マイニングで培った24時間動かし続けても高効率を維持できるトリプルワンの技術に白羽の矢が立った。すでに首都圏の東電PG敷地内で1300台の演算コンピューティングシステムを搭載したデータセンターを稼働し、この一部にトリプルワンの半導体が導入されている。

ハリウッド映画へも売り込みへ

トリプルワンは新たな需要の開拓も進める。今後はメタバース(仮想空間)などにも必要になる技術として、3DCGをリアルタイムで高速処理して出力する「レンダリング技術」に同社の半導体の活用を模索していく考えだ。

ハリウッド映画の3DCG制作のアーティストや世界的なゲームクリエーターにも、使い心地を試してもらいながら導入を促していく方針。「日本企業は技術ドリブンでやってきたが、今のマーケットは二の足を踏んでいる間に変わってしまう。海外のトッププレーヤーに引けを取らないスピード感でリスクを張る」(大島氏)として強いニーズ起点の開発を続ける。

(日経ビジネス 西岡杏=日本経済新聞社)

[日経ビジネス電子版 2024年3月25日の記事を再構成]

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