名古屋駅から車で約1時間。東京電力ホールディングスと中部電力の火力発電部門を統合したJERAは2024年4月、碧南火力発電所(愛知県碧南市)4号機で、石炭にアンモニアを2割混ぜて燃やす「混焼」の実証試験を始めた。
従来の燃料である石炭を燃やす48本の装置(バーナー)を改造し、アンモニアを供給するノズルをつないだ。発電所内にはアンモニアを貯蔵する直径16メートルのタンクが新設され、それを燃焼炉に運ぶ総延長3.5キロメートルの配管が敷かれた。
燃焼しても二酸化炭素(CO2)を出さない燃料として期待されているアンモニア。大規模実証試験は、この碧南火力発電所が世界初となる。ただし現状は、従来の燃料に加える混焼であるため、欧州を中心に「石炭火力の延命だ」との声は根強く、課題も多い。実験で有効性を示し、批判をはねのける必要がある。
JERAは早ければ27年度にアンモニアを使った発電の商用化を目指している。その後は、国内の石炭火力におけるアンモニア混焼の比率を30年代に50%、40年代には100%へと、段階的に高めていく予定だ。100%になれば従来の燃料を完全に置き換えることになり、アンモニアの「専焼」となる。3月13日の記者会見で、谷川勝哉所長は「低コストで迅速に脱炭素化を進めるための有効な手段だ」と意義を強調した。
日本に贈られた「化石賞」
日本では新たなクリーンエネルギーとして期待されているアンモニアだが、世界からの風当たりは強い。
日本は石炭火力発電からの脱却を目指す国際組織「脱石炭連盟」に、主要7カ国(G7)で唯一加盟していない。G7諸国が30年頃までに石炭火力の全廃を宣言する中、現時点ではアンモニアの混焼割合を高めることによって、CO2を削減しつつも石炭火力を使い続ける道を選んでいる。
23年11〜12月にドバイで開かれた第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では、欧州を中心とした国から「見せかけの環境対応策」「石炭火力の延命」といった批判の声が上がった。気候変動対策で足を引っ張っている国に対し、会期中に贈られる「本日の化石賞」までもらう始末だった。日本が格好の批判の的となってしまったのだ。
現実解としてのアンモニア
しかし、この批判についてJERA脱炭素推進室長の高橋賢司氏は「欧州とアジアでは置かれている状況が全く違う」と話す。今後人口の減少が見込まれる欧州に対し、東南アジアを中心に人口は増加し、電力需要も伸びていくからだ。
それに、アジアは欧州のように国境をまたいだ送電網もない。欧州と比較しても日照時間や風況にも恵まれておらず、欧州の進める太陽光や風力といった再生可能エネルギーが適している環境とはいえない。
一方で、アンモニアはすでに農業用の肥料や窒素源などとして世界中に普及している。沸点がマイナス253度の水素と比較しても、アンモニアはマイナス33度と高く、液化して輸送しやすい。脱炭素化を推進しながら、アジアの電力需要を満たし、安定供給もできるアンモニアは脱炭素の現実解となりつつあるのだ。
さらに、国際環境経済研究所理事・主席研究員の竹内純子氏は「欧州の批判姿勢を、冷ややかな目で見ている東南アジアの国も多い」と話す。温暖化は欧州をはじめとした先進国に責任があるにもかかわらず、高コストの再エネを売りつけようとする欧州の姿勢に不満があるからだ。
目指す低コストでの実現
日本がアンモニア発電で先んじれば、将来的に関連の機器を輸出するビジネスにも期待がかかる。この際にカギとなるのがコスト削減だ。
今回の碧南火力発電所4号機のような20%の混焼であればバーナーの改造だけで済むため、あまり大きな投資は必要ないと言われている。また、短期間での取り付けが可能なため、発電を中断する期間が短いことも大きなメリットだ。
ただし、アンモニアは石炭などに比べて燃えにくく、燃やし方によっては高濃度の窒素酸化物(NOx)を発生してしまうという難点もある。燃焼効率を維持しつつ、アンモニア比率100%を達成するためには、新たなボイラーやガスタービンの開発が不可欠だ。JERAのプロジェクトでバーナーの開発を担うIHIの担当者は「どの燃焼設備が最適なのか、検討すべき課題は多い」と話す。
石炭依存度が高いアジアの国々にとって、アンモニア発電は脱炭素化に踏み出す一歩になりそうだ。ただし、「石炭火力の延命」という批判をはねのけるためにも、実証実験による効果の検証と、高性能炉の早期実現が求められる。
(日経ビジネス 齋藤徹)
[日経ビジネス電子版 2024年3月29日の記事を再構成]
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