ほとんどの人はシマスカンクに遭遇したら、すぐに道を譲らなければ強烈な悪臭を放たれることをわかっている。しかし、野生動物はスカンクの有害さをどのように知るのだろう? クマ、オオカミ、ピューマといった手ごわい捕食者でさえ、白黒のシマスカンクを襲うことはほとんどない。
このたび、その真相が初めて明らかになった。ほとんどの捕食者は、生まれつきシマスカンク(Mephitis mephitis)を恐れているわけではなく、試行錯誤によって避けるべきだと学んでいるという。論文は4月18日付けで学術誌「Animal Behavior」に発表された。
信じられないかもしれないが、シマスカンクの白黒のしま模様が警告色かどうかを本格的に研究した科学者はこれまでいなかった。捕食者と被食者の相互作用や警告色に関する研究のほとんどは、ヤドクガエルや毒を持つガ、チョウなどの獲物とその捕食者である鳥について行われていると、論文の最終著者で、米カリフォルニア州立大学哺乳類研究所の所長を務める進化行動生態学者のテッド・スタンコウィッチ氏は述べている。
「スカンクにまつわる話は私たちの思い込みでした」とスタンコウィッチ氏は話す。「わかっているつもりでも、実際はわかっていなかったんです」
スカンクに会ったことのないコヨーテたちの反応は
スタンコウィッチ氏らは実験のため、米国ユタ州に暮らすコヨーテ(Canis latrans)を使うことにした。いずれも飼育下で生まれたか、生まれた巣穴を出る前に野生から飼育下に移された個体だ。
米農務省(USDA)野生生物研究センターとユタ州立大学が共同運営する約65ヘクタールの捕食者研究施設では、野生動物の性質を維持するためにあらゆる努力が行われていると、研究に参加したユタ州立大学野生生物資源学科の動物行動学者ジュリー・ヤング氏は述べている。「研究をするには最高の場所です」
実験の第1段階では、49頭のコヨーテが、茶色の毛皮に覆われたスカンクの模型に近づくと、無条件で餌が手に入ることを学んだ。
模型の上に置かれた餌を食べた勇敢なコヨーテたちは、実験の第2段階に進んだ。第2段階では、茶色の毛皮は白黒の毛皮に取り換えられた。
ただし、無害な茶色の模型と異なり、白黒の模型には小さなリモコン式のノズルが隠されており、コヨーテの顔にスカンクの悪臭を噴射できるようになっている。なお、動物虐待を避けるため、悪臭のもとであるスカンクの臭液は0.9%しか使用していない。
研究チームにとってこれは、スカンクに遭遇したことのないコヨーテたちが、白黒は危険だと学ぶのを観察できる貴重な機会だった。
結果は、第2段階に進んだコヨーテ36頭のうち、71.9%がスカンクそっくりの模型を完全に避けるようになった。しかも、スカンクの悪臭を平均2.4回浴びせられただけで、コヨーテたちは教訓を学んだ。もし100%本物の臭液を使用していたら、たった1回で学習したのではないかとスタンコウィッチ氏は考えている。
興味深いことに、茶色の模型に近づいて餌を食べたにもかかわらず、白黒の模型には全く近づかないコヨーテも4頭いた。白黒はコントラストが強いため、それだけで追い払うには十分なのだろうとスタンコウィッチ氏は分析する。
つまり、コヨーテがシマスカンクを避けるようになるのは生まれつきでもあり、後天的に学ぶことでもあるということだ。
「白黒のシグナルに対する警戒心と強い学習要素の両方が関係しています」
また、実験は行っていないものの、マダラスカンクやセジロスカンクなど、ほかの種にも両方の要因が働いている可能性が高いとスタンコウィッチ氏は考えている。
外来種でも警告色はわかる?
「私はまず、とてもエレガントな方法でこの概念を実証してくれたという感想を持ちました」と米ジョージア大学オダム生態学部の研究員アンディー・デイビス氏は語る。デイビス氏は今回の研究に参加していない。
デイビス氏も4月、警告色をテーマにした論文を学術誌「Insects」に発表し、米国南部に定着している外来種のジョロウグモが、オレンジと黒の強烈な警告色を持つオオカバマダラの有毒性を認識している可能性を指摘した。
一部のコヨーテが白黒のスカンクの模型を最初から避けたように、ジョロウグモは通常の割合で比較的シンプルなオレンジ色のチョウを狙うにもかかわらず、巣にかかったオオカバマダラはめったに攻撃しなかった。オオカバマダラに触れることも、味見することもなく、このチョウが口に合わないことを最初から知っているようだった。
この結果を説明するのは難しい。一方は外来種であり、2つの種が同じ環境で進化したわけではないため、ジョロウグモが生まれつきオオカバマダラの模様を避けるとは考えにくいとデイビス氏は述べている。
しかし、デイビス氏も認めているように、警告色に関する研究のほとんどはこのようなものだ。つまり、多くの場合、データは何通りにも解釈できる。ただし、デイビス氏に言わせれば、スカンクとコヨーテの研究にそのような問題はない。
「つまり、結果に曖昧さがありません」
文=Jason Bittel/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年5月17日公開)
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