海の「まっくろくろすけ」ガンガゼ。黒い体色なのに黄色に縁取られ黒い穴はよく目立つ。青く光る点は生殖孔=和歌山県串本町で、三村政司撮影

 吸い込まれそうな黒い穴。海底の深淵(しんえん)か、ブラックホールか。あるいは、ひとつ目がじっと見つめているのか。

 恐ろしげですが、ウニの仲間「ガンガゼ」のアップです。スタジオジブリのアニメ映画に登場する「まっくろくろすけ」のような見た目ですが、この「黒い穴」、まっくろくろすけと違って目ではなく、なんと肛門です。

 周囲が黄色いため、海中でも目立ちます。ヒトの感覚では、「お尻丸出しじゃないか」と、ちょっと恥ずかしいような、かわいらしく、ユーモラスでもあるような感じ。

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 ガンガゼは主に太平洋側の浅い海で、集団でうごめいています。漁業者など多くの関係者には厄介者として嫌われています。特徴である細く長いトゲの先に毒があり、刺さると激しい痛みに襲われるからです。トゲは長さが約30センチもあり、刺さると皮膚内で折れて数カ月間、体内にとどまることもあります。一方、食用のムラサキウニやバフンウニのトゲには毒がなく、長さも数センチ程度です。

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 長いトゲ以上にヒトが憎むのは、大量に発生したガンガゼが海藻類を食べ尽くし、「磯焼け」を引き起こすから。「豊かな森」だった海底の藻場を砂漠のようにしてしまう。陸上で例えるとイナゴのような存在です。

 生物多様性は失われ、沿岸漁業にも影響します。海藻類は貝類のエサでもあるため、養殖用にアワビやサザエの稚貝を放流している海域では、甚大な被害が発生しています。

 南方系のウニの一種で、房総半島以南の太平洋側に分布していたガンガゼですが、現在では、日本海側の富山県でも見つかっています。水温上昇により稚ウニの発生が増加、生息域も北上しているのです。各地でカニかごのようなものを利用して捕獲したり、ダイバーが駆除したりしているものの追いつきません。藻場の回復には長い年月が必要です。

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 とはいえ彼らも生態系の一員。ヒトの勝手な都合で「厄介者」扱いされているだけです。トゲは小魚が隠れる安全地帯であり、ガンガゼカクレエビという小さなエビも共生しています。イシダイなどはトゲをくわえてひっくり返し、毒のない腹部からガリガリと食べてしまいます。

 福岡県の漁協の依頼で実施された、同県の日本海側での駆除ボランティアに参加した経験があります。その時は、海中で割った殻から身が飛び出るのを、横でベラたちが待っていました。魚たちにとってガンガゼの生殖巣はウニ同様、ごちそうなのでしょう。理不尽に奪ってしまった命に手を合わせながら、私もベラと一緒にごちそうになりました。まさにウニの風味。食用ウニより味は薄いものの、美味でした。

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 ガンガゼは鹿児島県と熊本県の一部で商品化されています。ただ、トゲが長く、流通させるには手間がかかるようです。愛媛県愛南町や長崎県新上五島町では、駆除したガンガゼに廃棄野菜を与えて養殖し、飲食店や宿泊施設に出荷する試みがはじまっています。通常のウニより早い、6月が旬だそうです。

 海の生物や環境、ヒトとの間で、より良い共生関係を築きたいものです。(和歌山県串本町で撮影)【三村政司】

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