京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の井上治久教授らは11日、全身の筋肉が徐々に衰えるALS(筋萎縮性側索硬化症)について、治療薬候補を患者に投与する第2段階の臨床試験(治験)で一部の患者で病気の進行を抑制したと発表した。患者のiPS細胞を使って既存薬の中から治療薬候補を見つけた。最終治験で有効性を確認できれば、有望な治療法となる可能性がある。
ALSは運動神経の障害を伴う難病で、筋肉が徐々に動かなくなってしまう。国内には約9000人の患者がいるとされ、重症の場合には発症から数年で人工呼吸器を付けたり亡くなったりする場合がある。進行を遅らせる薬はあるが、根本的な治療法はない。
井上教授らは、iPS細胞でALSの細胞を再現。この細胞に1千種類以上の化合物を投与して効果のあるものを探し、最終的に米ファイザー製の慢性骨髄性白血病薬「ボスチニブ」を治療薬候補とした。2019〜21年に実施した第1段階の治験では安全性と、一部の患者で病気の進行を止める効果を確認していた。
今回、人数を増やして効果を詳細に確かめるために22年4月から実施した第2段階の治験の結果を公表した。京大や北里大学など7カ所の病院で同薬を1日に1回、24週にわたり比較的軽症の26人に投与した。データは別のALS治療薬の治験のプラセボ(偽薬)などと比較した。26人中、少なくとも13人で運動機能障害が進行するのを抑制する効果があることを確認した。
iPS創薬はiPS細胞の応用として、再生医療と並び最も注目されている手法だ。患者本人のiPS細胞から体の様々な細胞をつくれる性質を生かし、試験管内で病気を再現して、効く可能性のある薬の候補をしらみつぶしに調べられる。
国内では徐々に成果が出始めている。慶応義塾大学もパーキンソン病の治療薬がALSの進行を7カ月遅らせる効果があることを見つけた。現在は最終段階の治験の準備中という。
CiRAの別のチームは、iPS細胞からつくった「オルガノイド(ミニ臓器)」を使い、腎臓の難病「多発性囊胞腎」の治療薬候補として白血病の治療薬を見つけた。現在は初期段階の治験が始まっている。
新しい創薬の手法として注目を集めるiPS創薬だが、課題はある。現状では創薬にかかる費用や時間を節約するため、既に安全性が確認されている既存薬を転用する例が大半だ。
既存薬は特許が切れると薬価を下げられ、製薬企業は新たな用途の開発に後ろ向きになりがちだ。普及には製薬企業の協力はもちろん、用途を拡大した薬は薬価にプレミアムをつけるなど薬事政策の検討も必要になる。
(三隅勇気)
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