みずほフィナンシャルグループ(FG)が、企業の脱炭素に向けた取り組みを日本の産業競争力強化につなげる後押しを進めている。脱炭素へのトランジション(移行)に向けた資金の提供を進め、スタートアップへの出資も加速した。取引先の再生可能エネルギー利用を促す仕組みなども開発している。牛窪恭彦執行役グループCSuO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)は「脱炭素は企業単独で取り組みにくい課題だ。当社の顧客基盤を背景に、つなぐ力を活用したい」と力を込める。

うしくぼ・やすひこ 1989年一橋大経卒、日本興業銀行入行。2020年リサーチ&コンサルティングユニット長(現任)、22年9月から現職。埼玉県出身。57歳

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産業競争力強化と両立

当社のネットゼロ(温暖化ガス排出量実質ゼロ)移行計画では、実体経済のネットゼロへの移行の促進、脱炭素に関連するビジネス機会の獲得、リスク管理が3本柱だ。2030年までにサステナブルファイナンス100兆円という目標を掲げ、事業分野(セクター)と、脱炭素への対応状況の2軸でリスクを特定し、顧客との対話(エンゲージメント)を通じて行動を促し、トランジションに必要な資金を提供していく。

「サステナビリティが拓く 日本産業力強化への道筋」という報告書も公表した。脱炭素をはじめとした日本企業のサステナビリティー(持続可能性)への取り組みが産業競争力強化と企業価値向上につながるという当社の考え方をまとめた。国内外の幅広いステークホルダー(利害関係者)に発信することを目的としている。

3つの力を活用

脱炭素と産業競争力強化両立のため当社がこれまで培ってきた「産業知見、技術への目利き力」「グループ内・外のつなぐ力」「ファイナンスアレンジ力」の3つの力を活用する。

「目利き力」では各産業の調査、分析にあたるみずほ銀行産業調査部の産業知見と130人を超える環境コンサルタントを抱えるみずほリサーチ&テクノロジーズの技術知見を生かす。脱炭素の取り組みを具体化したい顧客に産業調査部が戦略の提案をし、リサーチ&テクノロジーズが具体化に向けコンサルティングをする連携ができる。

「つなぐ力」はキーワードだ。脱炭素は一企業、一国でできないこともある。「協調領域」を定めて、同じような課題を持つ顧客同士の協調を促す役割を果たす。同業のライバル同士の場合は協調領域と競争領域の線引きも必要になる。

「ファイナンスアレンジ力」については、日本のシンジケートローン市場をけん引してきた歴史的な強みを発揮し、資金の流れをつくっていく。

金融機関にとってのスコープ3は投融資先の温暖化ガス排出量(ファイナンスド・エミッション)だ。トランジションの資金を提供すると、排出量が一時的に増えることもあるが、長い目で見れば顧客の脱炭素化は、金融機関自身のリスク低減にもつながるため、引き続き資金の提供に力を入れる。

投融資先の温暖化ガス排出量については電力、石油・ガス、石炭採掘などセクターごとに30年度までの削減目標を設定した。不動産、鉄鋼についても目標設定を検討している。

出資枠で実績重ねる

脱炭素関連の技術を持つ事業会社への出資枠も設けている。10年間で500億円超の枠を設けるトランジション出資枠では5件の実績がある。投資先の技術に関心を持つ当社の顧客を紹介し、投資先のバリューアップ、新技術の社会実装を促す。最近の例では、二酸化炭素の回収・貯留(CCS)プロジェクトに取り組むカナダのスタートアップに500万カナダドル(約5億5000万円)出資した。

商業化段階にある事業会社に直接資本参加する価値共創投資枠では6件の実績を上げた。例えばインドでプラスチックなどの廃棄物から代替燃料を製造するシンガポールの企業に500万ドル(約7億5000万円)を投資した。循環型の廃棄物処理の仕組みづくりに向けて日本企業に参加してもらったり、技術を日本に導入したりといった支援ができる。

脱炭素は総力戦でやらないと国が掲げる30年度の温暖化ガス削減目標46%削減の達成はおぼつかない。負担、コストとして脱炭素に取り組むのではなく、新しいビジネスをつくっていくことが重要だ。当社のパーパス(存在意義)「ともに挑む。ともに実る。」のもと、当社の機能を総動員して脱炭素化を推進し、サステナビリティー課題解決につながる技術の社会実装を後押ししていきたい。

みずほリースグループの太陽光発電所を活用したバーチャルPPAを構築した

金融以外の支援機能を拡充


 みずほFGは、取引先の脱炭素に向けた取り組みを、金融を超えた分野でも拡充している。2023年度は再生可能エネルギー由来の電力調達を実質的に可能にするバーチャルPPA(電力購入契約)の仕組み構築など、実績を積み重ねた。牛窪CSuOは「事業構想の段階から顧客の課題を見いだし、解決策を議論し、資金提供の段階でも選ばれる存在になる」と強調する。
 牛窪氏は資金提供などの金融以外の分野でも支援を重視してきた理由について「金融だけでは他のメガバンクと差別化しにくい。金融を中核としつつビジネスの上流で付加価値をつけられるかが金融グループの勝負どころだ」と話す。
 23年4月には、花王のすみだ事業場(東京・墨田)で使用する全電力を対象とした、国内最大規模のバーチャルPPAの仕組みをつくった。
 花王側が従来の小売電力事業者との電気需給契約を維持したまま、みずほリースグループの太陽光発電所からの電力を利用したとする「環境価値」を受け取る。バーチャルPPAは太陽光発電所の開発適地と需要地の偏在、夜間を含めた使用電力の再エネ化といった課題を解消できる手法として注目されている。牛窪氏は「同じように電源の脱炭素化を図りたい顧客に展開できる」とみる。
 24年2月には、みずほFGからe-dash(東京・千代田)へ出資した。出資にとどまらず、みずほFGと取引のある中堅・中小企業の脱炭素の取り組み支援も目的だ。
 e-dashは光熱費などエネルギー関連の請求書をスキャンしてアップロードすると、自社と他社から供給された電気や熱などの温暖化ガス排出量(スコープ1、2)を自動算出できるソフトを提供する。
 人的、資金面に制約があり排出量の把握、削減になかなか着手できないでいた中堅・中小企業に、e-dashのソフトを紹介し、排出量を把握しやすくする。牛窪氏は「顧客が得意先などから排出量のデータ提供を求められた時などに対応しやすくする。当社の計画で掲げた実体経済のネットゼロ移行促進にもつながる」と指摘する。
 脱炭素関連ビジネスは取引先も未知な部分が多いだけに、みずほ銀行産業調査部やみずほリサーチ&テクノロジーズの知見などを提供する余地が大きい。牛窪氏は「産業調査部とリサーチ&テクノロジーズで事業戦略の提案から立案を担い、M&A(合併・買収)が必要ならみずほ証券が、不動産を有効活用するならみずほ信託銀行が支援できる」と、グループ内での相乗効果を期待している。

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