米テスラは自社工場にヒト型ロボットを導入することを目指している=同社がユーチューブで公開した映像より
製造業で生成AI(人工知能)の実用化に向けた開発が進む。生成AIの活用は製品設計やデータ分析など多岐にわたる。特にファクトリーオートメーション(FA、工場の自動化)の分野では技術者不足の解消に生成AIが欠かせない。自動車業界では取り組みが進んでおり、米テスラは自社開発したヒト型ロボットを年内に自社工場で導入予定だ。 日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

生成AIは製造業のあらゆる面に浸透しつつある。これにより業務が大幅に効率化し、意思決定が明確になる。生成AI事業の大半はまだ開発初期の段階だが、既存大手やスタートアップはこの可能性に大きく懸けている。

例えば、スイスの重電大手ABBはロボットから予知保全まで社内で100以上の生成AIの用途を見いだしている。組み立てライン向けにコンピュータービジョンを搭載したAIコパイロット(副操縦士)を開発する米レトロコーザル(Retrocausal)は、生成AIの導入により手作業での組み立て時間を3分の1短縮できるとみている。

今回のリポートでは先端製造各社が生成AIを活用し、製品設計やシミュレーションの改善、知見の推進、FAの新たな機能の開発にどう取り組んでいるかについて取り上げる。

製造業における生成AIの3つの用途

製品設計&シミュレーション

コンピューターを活用して設計案を自動生成する「ジェネレーティブデザイン」の歴史は数十年前に遡るが、大手各社は今や従来のCAD(コンピューター支援設計ソフト)や工学シミュレーションソフトに生成AIを搭載するようになっている。設計の目的や制約条件を入力すると、多様な設計案を速やかに生成し、テストできる。

例えば、CADソフト大手の米オートデスクの製品は、強度や重量などの要素を分析し、3次元(3D)プリンターやCNC(数値制御)など利用可能な機器に応じてコストや材料、製造方法を最適化できる。同様に、シミュレーションソフト大手の米アンシスは従来のツールの最大100倍の速度で設計案を試せるシミュレーションツール「シムAI」を開発した。

米エヌビディアのメタバース(仮想空間)開発プラットフォーム「オムニバース」は、自然な言葉での描写に基づいて施設全体の設計案を生成してくれる。独シーメンスは2024年1〜3月期の決算説明会で、PLM(製品ライフサイクル管理)ソフトの画像に現実感を持たせるため、オムニバースを活用していると明らかにした。

ジェネレーティブデザインは参入障壁を下げられる「ノーコード/ローコード」を売りにするようになっている。例えば、米レオAI(Leo AI)は自然な言葉での指示に基づいて編集可能な3Dモデルを生成するコパイロットを手掛ける。

製造アナリティクス(分析)

膨大な量の産業データが生成されているにもかかわらず、その60〜95%は未活用だとされる。しかも、データが膨大で社内にデータ分析の専門家がいないため、多くの企業が産業データから実用的な知見を引き出せていない。

生成AIは複雑なデータセットから知見を集めるデジタルコパイロットとして働き、製造各社がデータを自動で収集、分析できるよう支援する。この技術はまだ初期の段階だが、各社はすでに工場の業務を最適化するシステムを展開しつつある。

例えば、米分析ソフト大手SASは、技術に詳しくないユーザーでも輸送に必要なトラック台数など倉庫の計画の判断を下せる生成AIコパイロットを開発している。

同様に、米チューリップ(Tulip)のコパイロットを使えば、産業分析プラットフォームとのコミュニケーションが容易になる。自然な言葉で指示を入力し、収集データについて様々な質問をすれば、回答を得られる。

同様に、ノルウェーのコグナイト(Cognite)と米マイクロソフトはそれぞれの産業分析力と企業分析力を組み合わせ、工場業務全般のデータ分析の使い勝手を高める対話型インターフェースを開発した。

FA

世界の製造各社で熟練のエンジニアや技術者が不足し、自動化を推進する必要性が高まっている。同様に、人件費の高い多くの国では競争力を維持するため広範な自動化を頼りにしている。

製造業向けAIコパイロットや産業用AIエージェントなど、生成AIを搭載したソフトとハードの新たなFAシステムを開発すれば、こうした問題の解消に役立つ。コパイロットは作業員をリアルタイムで支援する高度なツールで、AIエージェントはタスクをこなす手順を自ら考えて実行するよう設計されている。

各社はこうした技術をすでに投入している。例えば、シーメンスは23年にマイクロソフトと提携し、複雑な自動化コードを生成し、機器のメンテナンスの指示を出す産業用コパイロットを開発した。米コンポーザブル(Composabl)は24年5月、大規模言語モデル(LLM)を使ってロボットやドローン(小型無人機)などの機器やプロセスを制御する自律型エージェントの提供を開始した。

AIを搭載したヒューマノイド(ヒト型ロボット)も、これまでは難しいとされていた工場のプロセスの自動化を果たす大きな可能性を秘めている。ヒト型ロボットが工場で広く使われるのは3〜5年先になりそうだが、開発各社はすでに生成AIを活用して実用化の最大の壁の1つであるヒト型ロボットの学習と推論を試みている。

米アジリティ・ロボティクス(Agility Robotics)や米カインド・ヒューマノイド(Kind Humanoid)などの開発企業は、自然言語処理(NLP)を搭載し、口頭での指示を聞いて対応できるヒト型ロボットを開発した。米フィギュアAI(Figure AI)は自社のヒト型ロボットに言語処理機能と視覚機能を持たせるため、米オープンAI(Open AI)と提携している。

製造業でのヒト型ロボットの試験運用は特に自動車産業で進んでいる。米アプトロニック(Apptronik)は独メルセデス・ベンツ、フィギュアAIは独BMWとそれぞれ提携し、工場での利用を試している。米テスラは自社開発したヒト型ロボット「オプティマス」を年内に自社工場に導入するようだ。米ボストン・ダイナミクスは今後数年間、新たなヒト型ロボット「アトラス」を韓国・現代自動車と共同で試す。

生成AIは自動化をさらに進めるだけでなく、新たな労働需要も生み出す。生成AIの登場に伴い、機械学習エンジニアや、生成AI搭載システムが業務と適合し、想定通りの性能を発揮できるようにするAIメンテナンス作業員の需要が生じるからだ。

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