高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構などの研究グループはこのほど、両機構が共同運営するJ―PARCセンター(茨城県東海村)で、素粒子の一つ「ミューオン」を人工的に冷却し、再加速させることに世界で初めて成功した。物質を構成する素粒子のふるまいを説明する物理学の「標準理論」の検証につながるほか、現在利用されている巨大構造物の内部調査での精度向上などが期待されるという。

ミューオンは物質を透過する能力が非常に高く、厚さ数キロある岩盤でも通り抜けられる。一方で、物質の密度が高ければ透過する粒子数が減るため、粒子の飛来した方向と数を調べることで、地盤や巨大構造物内部の密度分布を可視化することができる。ただ、極めて寿命が短い上に、粒子の速さや向きをそろえることは難しかった。

研究グループは、加速器で発生させた光速の30%ほどの速さのミューオンを、スポンジ状の断熱材「シリカエアロゲル」に通してからレーザー照射して冷却し、いったんほぼ停止させた。その上で、エネルギーを加え光速の約4%まで再加速させることに成功した。

停止状態から再加速させたミューオンは粒子の向きと速さがそろっているため、透過した物質の形などを判別する精度が向上。構造物内部のより詳細な調査やより精密な顕微鏡の開発などへの応用が期待される。

さらに、現在の「標準理論」では説明できない未解明の物理現象を解明するカギとなる可能性もあるという。

研究チームは今後、ミューオンを光速の約94%まで再加速させる技術開発を進めており、2028年の完成を目指している。

研究代表を務める高エネ研の三部勉教授は「(今回の成果で)世界唯一のミューオンを使った顕微鏡開発などへの一歩を踏み出したと言える」と話している。

素粒子「ミューオン」を冷却させる機器の前で研究内容を説明する高エネルギー加速器研究機構の三部勉教授=5日午後、茨城県東海村

素粒子「ミューオン」の加速に用いられた機器=5日午後、茨城県東海村

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