大阪大学の石谷太教授らは寿命が極めて短い魚類を使った研究で、精子や卵といった生殖細胞が寿命を制御していることを明らかにした。メスの生殖細胞は寿命を延ばし、オスでは逆に短くしていた。脊椎動物の性差による寿命の違いや老化現象の解明などにつながる。
自然界の動物は出産する子どもの数が少ない種ほど寿命が長く、逆に子どもが多いと寿命が短くなる傾向がある。生殖と寿命には密接な関係があると考えられてきた。線虫やショウジョウバエなどの無脊椎動物の研究では生殖細胞を除去すると寿命が延びるという報告がある。
ヒトを含む脊椎動物は寿命が比較的長いために研究が難しかった。石谷教授らは平均寿命が半年程度と短命な魚のターコイズキリフィッシュに着目した。この魚はオスよりメスの方が長生きで、加齢で筋肉の衰えや脳の萎縮などヒトに似た老化現象が起きる。
遺伝子の働きを操作して生殖細胞が作れない個体を作製したところ、オスは平均寿命が13%伸びた。精子ができなくなったオスでは肝臓でビタミンDの合成に関わる遺伝子の働きが高まった。合成したビタミンDが筋肉の維持や皮膚のハリを保つ遺伝子の機能を向上させていた。
一方、卵を作れないメスは平均寿命が7%短くなった。卵が分泌する女性ホルモンは肝臓に作用して有害な酸化ストレスを抑える。卵ができなくなったことでこの働きが低下し、寿命が短くなったと考えられる。
ビタミンDの働きを詳しく調べるために通常の個体に長期間与えると、平均寿命がオスで21%、メスでは7%伸びた。
ヒトは女性は男性より長生きする傾向がある。他の研究グループが長寿者が多い北イタリア地域の高齢者を調べたところ、ビタミンDに関わる遺伝子に変化が多く見られていた。ヒトでもターコイズキリフィッシュと同じビタミンDの合成に関わる遺伝子があり「同じような仕組みが存在する可能性がある」(石谷教授)。
今後は生殖細胞がどのような仕組みで遺伝子や臓器などの機能を制御し、寿命に影響を与えるかを詳しく調べる。九州大学や群馬大学などとの共同研究で、成果をまとめた論文を米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に掲載した。
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