中国政府による監視が強まったことで、外資企業は市場調査や分析を行う際、以前よりも慎重になっている

外資企業の撤退や拠点の閉鎖などが相次ぐ中国市場。景気低迷だけでなく、中国政府による監視や処罰の強化や米中対立による半導体規制、地場企業の台頭といった苦難が押し寄せる。

中国政府は2021年までに「データ3法」といわれるインターネット安全法、データ安全法、個人情報保護法を整備したほか、23年7月には改正反スパイ法を施行した。同3月には、アステラス製薬の中国法人に勤務する日本人幹部が改正前の反スパイ法違反で逮捕されたこともあり、日本企業の間で一気に緊張感が高まった。

データ3法については個人情報の国外移転が規制の対象となり、手続きが複雑化した。それでも中国日本商会の本間哲朗会長(パナソニックホールディングス副社長)は「対応に追加費用は必要だが、多くの企業でめどはつきつつある」とする。

問題は反スパイ法だろう。スパイ行為の対象が従来の「国家の秘密や情報」に加えて「国家の安全と利益に関わる文書やデータなど」に拡大。運用の基準がこれまでよりも曖昧になった。

反スパイ法、市場調査でリスク

難しいのが市場調査や分析をする際に必要となる中央や地方の政府関係者との関わり方だ。親密になりすぎたり過度な情報収集をしたりすれば、反スパイ法に問われかねない。ある日系商社幹部は「反スパイ法が改正されてから、政府関係者との打ち合わせは直接ではなく仲介業者などの第三者を介するようになった」と明かす。

中国離れの第3の要因は、米中対立の深刻化だ。18年以降、米政府は半導体を中心とした最先端技術の漏洩を防ぐために中国に対する輸出規制を強めてきた。華為技術(ファーウェイ)などの中国企業を事実上の禁輸措置を課す「エンティティーリスト」に指定したほか、半導体製造装置や関連技術の中国への輸出についても規制を加えてきた。対象は年々広がっており、関係する企業はその都度対応を迫られている。

あおりを受ける一社が人工知能(AI)半導体の雄である米エヌビディアだ。例えば、米商務省が22年10月、中国への高性能なAI半導体の輸出を規制した際、エヌビディアは規制の基準を下回る性能の製品を開発することで中国での販売を再開した。だが米商務省は23年10月に規制対象を拡大。再び中国でのAI半導体の販売停止を余儀なくされた。エヌビディアは24年に入り、新たな規制に対応したAI半導体のサンプル出荷を始めているというが、米商務省のライセンスが取得できるかどうかは不透明な部分が残る。

日系の半導体製造装置メーカー幹部は「米国規制の範囲内でビジネスを展開するしかない。いつ規制が変更されるのか神経をとがらせている」と明かす。

そして最後の要因は中国の地場企業の台頭だ。中国企業が急速に技術力を高めており、外資企業の脅威になっている。

日系自動車、中国事業で苦戦

猛威を振るっているのが自動車産業だろう。中国政府が電気自動車(EV)を含む新エネルギー車を国策として推進した結果、100社を超えるスタートアップが勃興した。比亜迪(BYD)のように、世界の自動車販売上位10社に入る企業も出てきた。これに対して、事業の見直しを迫られているのが日本の自動車メーカーだ。三菱自動車は23年10月、中国の自動車生産から撤退すると発表した。ホンダも中国合弁会社の人員削減に踏み切った。

自動車産業はサプライチェーンが広く、完成車メーカーが撤退すればその影響は広範囲に及ぶ。ある日系の自動車部品メーカー幹部は「これまで日系の自動車メーカーと共に中国市場を開拓してきた。すぐにBYDなど中国のEV大手を開拓できるわけではない」と語る。

4つの要因で加速する外資企業の中国離れ。中国政府も危機感を募らせているのは確かだろう。李強(リー・チャン)首相は3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の政府活動報告で「対中投資への行政支援を強化する」と発言した。全人代の直後には、中国国務院(政府)が外資の誘致強化に向けた行動計画を発表し、製造業での参入障壁の撤廃などを盛り込んだ。

その一方で、中国は対立する米国を中心とした西側諸国以外の新興国との結びつきを強めようとしたたかに動く。24年には、中国とロシアが主導する新興5カ国のBRICSにサウジアラビアとイラン、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア、エジプトが新たに参画する。BRICSとの関係構築を望む国は約30カ国に上るとされており、今後、米国を中心とするG7(主要7カ国)に対抗する組織として勢力を拡大していくと見られる。

中国、新興国を軸に連携

こうした動きは貿易にも表れている。中国から日米欧への輸出は減少傾向にあるものの、その他の国・地域との経済的な連携は強まっている。各国・地域の対中輸入の依存度を17年と23年1〜9月で比較すると、米国は7.9ポイント減、日本は2.6ポイント減だったが、アジアの新興国・地域は2.1ポイント増、中南米は1.7ポイント増、サハラ砂漠以南のアフリカ地域は3.6ポイント増だった。

経済の低迷などによって外資企業が逃げ出す中国。孤立しているようにも見えるが、新興国を軸に連携を深めようとしている見逃せない動きも出てきている。また米中を中心にデカップリング(分断)が進む中、実力をつけてきた中国企業は国内外で生き残り策を模索している。その動向には目を光らせなければならない。

(日経BP上海支局長 佐伯真也)

[日経ビジネス電子版 2024年4月14日の記事を再構成]

日経ビジネス電子版

週刊経済誌「日経ビジネス」と「日経ビジネス電子版」の記事をスマートフォン、タブレット、パソコンでお読みいただけます。日経読者なら割引料金でご利用いただけます。

詳細・お申し込みはこちら
https://info.nikkei.com/nb/subscription-nk/

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。