あなたは責任感の強い長男長女か、見過ごされがちな真ん中か、それとも自由奔放な末っ子か? 生まれた順番による「きょうだい型」が性格に影響するという説を信じる人にとって、この質問の答えは、あなたがどのような人物であるかの鍵を握っているかもしれない。パーティーや家族の食事会、セラピーのセッションなどでは、きょうだい型が性格を表す略語のように使われることがある。わがままな一人っ子、注目されたい真ん中というように。
あなたの個人的な経験は、その説が正しいことを示唆しているかもしれないが、心理学者の意見は異なる。ここでは、その固定観念を捨てるべき理由を説明しよう。
きょうだい型に関する心理学理論の起源
生まれた順番が子どもの性格に影響を与えるという考えは、人間そのものと同じくらい古いものかもしれない。結局のところ、さまざまな社会が長い間、家族における立場によって人を優遇したり、ぞんざいに扱ったりしてきた。
例えば、多くの古代社会では、第1子が誕生するとその子の親が家長になり、それがしばしば社会的地位の向上につながった。また、ミクロネシアにおける初産の女性のための入浴や、祭司に銀貨5枚を支払うことで長男が「贖罪(しょくざい)」されるユダヤ教の伝統儀式など、第1子の誕生にまつわる儀式も生まれた。
さらに、生まれた順番は長い間、相続権や王位継承順位を決定してきた。英国の君主制では、「継承者」である第1子に加えて、継承者に万一のことがあった場合に備えて1人以上の「予備」が求められてきた。
しかし、生まれた順番に関する心理学理論が登場したのは20世紀初頭だ。心理学者のアルフレッド・アドラーが、生まれた順番は社会的地位だけでなく、子どもの発達や性格に影響を及ぼすという理論を発表した。個人心理学の父として知られるアドラーは、個人の「ファミリー・コンステレーション」(家族の中でどの位置を占めているか)でその人の性格特性を予測できると主張した。
アドラーによれば、弟や妹の誕生は第1子から両親の関心を奪う。その結果、第1子は神経質で、保守的になりやすく、年長者に倣う傾向がある。第2子は目立ちたがり屋で、末っ子は甘やかされた怠け者だ。そして、兄弟姉妹がいない環境で育った人は「マザーコンプレックス」になり、父親に対抗心を抱くという。
各国での講演、心理学の教科書、心理療法で有名なアドラーは現在も、心理学全体に影響を与えている。その結果、心理学者は何世代にもわたり、生まれた順番に関するアドラーの理論を証明しようと研究を続けてきた。
関連「ある」説に水を差す近年の研究結果
アドラー以降の時代に行われた研究では、生まれた順番と学歴、セクシュアリティー、チームスポーツでの成功など、あらゆるものとの関連性が見つかっている。
この理論の現代の提唱者として有名なフランク・サロウェイ氏は、生まれた順番の影響を評価するため、1990年代から2000年代にかけて成人のキャリアを調査した。
サロウェイ氏は、第1子の有名科学者は保守的な研究を行う傾向があり、進化論や相対性理論といった急進的な研究は、第1子ではない有名科学者に多いことを発見した。また、フランスの革命家マクシミリアン・ロベスピエールのような好戦的な第1子と、穏健で非暴力的なやり方をする中間子の有名人では軍事的、政治的戦略に違いがあることを見いだした。
しかし、性格の形成に最も応用できる研究は開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向から成る「ビッグファイブ(主要5因子)」性格特性を調べたものだ。また、サロウェイ氏以降の研究では、生まれた順番が性格を形づくるという説に水を差すような結果も出ている。
米ヒューストン大学の心理学准教授ロディカ・ダミアン氏は、米国の高校生44万人以上を長期的に追った調査のデータを用い、この種で最大級の研究を2015年に学術誌「Journal of Research in Personality」に発表した。社会経済的地位、性別、年齢の影響を調整した結果、「生まれた順番と性格特性の関連性は限りなくゼロに近い」ことが示されたとダミアン氏は結論づけている。
同じく2015年に学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された別の研究もダミアン氏の結論を補強している。米国、英国、ドイツの全国規模のサンプルを分析した結果、「外向性、情緒安定性、協調性、誠実性、想像力について、いずれも生まれた順番の影響は見られなかった」と論文には書かれている。
ただし、どちらの研究チームも、第1子が喜ぶ(そして、その弟や妹が落胆する)特性の証拠を発見した。それぞれの研究で、第1子は言語知能が高い傾向がわずかにあると示されたのだ。
これは必ずしも、第1子はより賢い、より学習が得意といった意味ではないとダミアン氏は述べている。おそらく第1子は幼少期に大人と過ごす時間が長いためだろう。また、ダミアン氏は論文で、IQ(知能指数)に換算すると1ポイントの差にすぎないと指摘している。
さらに、「PNAS」の研究チームは「生まれた順番は知性の領域を除き、広範な性格特性に永続的な影響を及ぼさないと結論づけざるを得ない」と書いている。
では、何が性格を形成するのか?
ダミアン氏は科学者として、どんな理論であれ「反証された」と主張することには慎重だ。それでも、生まれた順番が性格に影響するという説は、現代の研究では基本的に否定されていると考えている。
では、決して死なないという意味でダミアン氏が「ゾンビ理論」と呼んでいるように、なぜこの考えはいまだに人々を魅了し、なぜ研究者はこの疑問を掘り下げ続けるのだろう?
「すべての人が意見を持っています。たとえ一人っ子であっても、すべての人に生まれた順番があるためです」とダミアン氏は語る。そして、私たちが生まれ順の心理学をやめられない理由の一つは、私たち自身の経験がそれを支持しているように思えるためかもしれない。年上の子どもは常に弟や妹より責任感が強く、洗練されているように見える。なぜなら、年上の子どもは常に弟や妹より成長しているためだ。
「たとえそのように見え、それが事実だとしても、過去にさかのぼり、子どもたちを同じ年齢にそろえて観察できる魔法のレンズはありません」とダミアン氏は説明する。
生まれ順で性格が形づくられるように見えるのは、年齢の違いとの「完全な混同」だとダミアン氏らは書いている。そして、それは「個人的な経験が誤りであり、真実を見つけるには優れた科学的推論と調査をするしかないような状況のひとつ」だ。
実際のところ、性格形成の科学は解明されたとはとても言えない。双生児研究を分析した近年の研究は、性格の約40%は遺伝によって形づくられると示唆している。残りの60%は、環境と文化的慣習の複雑な組み合わせの影響なのかもしれない。
研究者は「ビッグファイブ」性格特性を測定できるが、私たちの日常生活、あるいは性格を形づくる主観的な経験を数値化するのは難しい。ダミアン氏は現在、人が自分の体験について自分自身に語る「ライフナラティブ」が人間性に及ぼす影響を研究している。しかし、多くの人にとって、生まれと育ちのもつれを解きほぐすよりも、兄弟姉妹をからかう方がはるかに楽しいだろう。
文=Erin Blakemore/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年6月10日公開)
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