マウスで特定のRNAが作れないと記憶力の低下などが起きる=熊本大学の中條岳志講師提供

熊本大学の中條岳志講師らはマウスの研究で特定のRNAが作られないと脳の発達が異常になり、記憶力や学習力が低下した。詳しい仕組みを解明すれば治療薬の開発につながる。

RNAの一種でたんぱく質の設計図になるのがメッセンジャーRNA(mRNA)だ。この設計図を基に酵素がアミノ酸をつなぎ合わせ、たんぱく質を合成する。今回の研究は、このアミノ酸を運搬する役割を担うトランスファーRNA(tRNA)に着目した。

tRNAはアミノ酸と結合するRNAで、分解されやすい。生体内ではtRNAを保護するために酵素がさまざまな化学反応を起こす。酵素は100種類程度あり、正常に働かないと糖尿病を発症しやすくなったり、てんかんをはじめとする脳や神経の病気などを引き起こしたりする。

研究チームは様々なtRNAに必要な化学反応に関わる「TRMT10A」遺伝子に着目した。この遺伝子は小頭症などの発症に関わるとされるが、詳しい仕組みは不明だった。遺伝子操作でTRMT10A遺伝子が働かないマウスを作製して、その機能を調べた。

作製したマウスは体と脳の大きさが小さくなる小頭症に似た症状がみられた。迷路を解く試験をさせると、正常なマウスは数日の訓練後に約10秒でゴールに到達したが、遺伝子が機能しないマウスは100秒程度かかり、学習力や記憶力が低下していた。

脳の海馬を詳しく調べると、神経細胞同士をつなぐ接続部分の構造が小さく、学習につながる反応がほとんど起きていなかった。脳の発達に何らか異常が起きたとみられる。脳以外の腎臓や肝臓など、別の臓器には異常は認められなかった。

今後は、不足するtRNAを遺伝子導入などで補い、症状が改善されるか検証する。将来的には脳の発達異常などに対する遺伝子治療の開発などにつなげたい考えだ。研究成果をまとめた論文は英科学誌「ヌクレイック・アシッズ・リサーチ」に掲載された。

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