イーアクスルはモーターとインバーター、減速機の3つを一体化した部品(写真:スバル提供)
電気自動車(EV)の心臓部を担う電動駆動装置「イーアクスル」の開発競争が激化している。自動車メーカーや大手部品会社、異業種などからの参入が絶えず、プレーヤーは増加の一途をたどっている。技術進歩が急速に進む中、早くも汎用品によるコスト競争も過熱している。後発での本格参入が多い日本勢に勝機はあるのか。

SUBARU(スバル)は3月、アイシンと次世代イーアクスルの共同開発で合意した。高効率で小型・軽量を目指し、スバルが2020年代後半に投入する電気自動車(EV)に搭載する方針だ。スバルは現行のEV「ソルテラ」で、アイシンなどトヨタ自動車系部品メーカーが開発したイーアクスルを採用している。

ソルテラはトヨタと共同開発したEVで、兄弟車のトヨタ「bZ4X」と基本装備を共通化している。スバルはこれまでイーアクスルの供給を受けているものの、共同開発・分担生産を通じてイーアクスル事業に参入する。

イーアクスルは、モーターとモーター制御に使うインバーター、モーターの回転数を調整する減速機を三位一体でまとめた部品だ。EVの航続距離を伸ばし、走行性能を左右する心臓部を担う。EVはガソリン車と比べて部品が2分の1〜3分の1に減るとされ、複数の部品をまとめたモジュール化が進む。自動車メーカーにとってはEVの開発や生産にかかる工程を減らせるといった利点がある。

スバルの狙いは明確だ。28年末までにEVを8車種投入する計画を掲げる。車のつくり方が大きく変わる中、イーアクスルは電池と並び、EVの競争力を左右する要となる。アイシンとの共同開発には、自動車メーカーとしても要となる部品を内製化し、技術的な優位性を保ちたいという思いがにじむ。

協業を発表したスバルの大崎篤社長(写真左)とアイシンの吉田守孝社長(写真:スバル提供)

電動化時代を見据え、ガソリン車で構築したサプライチェーン(供給網)を維持できるかも課題となる。共同開発するイーアクスルはアイシンと生産を分担する予定だ。スバルのサプライヤーで、燃料タンクなどを手掛ける坂本工業(群馬県太田市)に一部工程を担ってもらう。スバル担当者は「ガソリン車の部品製造・加工をしている取引先の仕事が減少していく見込みの中、(EV関連で)新しい事業領域にチャレンジする機会をつくりたい」と強調する。サプライヤーに対し、EVシフトに対応した事業変革を促す。

調査会社の富士経済(東京・中央)によると、イーアクスルの世界市場規模は35年に19年比50倍強の自動車1250万台分に拡大するとの予測だ。需要拡大を見込み、世界では参入企業が増え、群雄割拠の様相を呈している。

ニデックのイーアクスル事業は赤字

自動車メーカーが系列の部品大手と組む一方、独ボッシュや独ZFなどメガサプライヤーも攻勢をかける。EV市場で先頭を走る米テスラや中国・比亜迪(BYD)は、専用プラットホーム(車台)に合わせたイーアクスルを自社で内製する。モーター事業をベースに参入したニデックは、いち早く19年からイーアクスルの量産を始め、EVの主戦場である中国で現地車メーカー向けに供給してきた。

イーアクスルは20年ごろから航続距離を伸ばすための効率化や小型化が進んだ。重くて大きい電池がEVの車体の大半を占める分、イーアクスルの小型・軽量化が各社に共通する競争軸となっている。

コスト競争力もカギだ。中国ではすでにイーアクスルの価格競争が激化している。ニデックは累計70万台超(23年4月時点)を供給し、30年に世界シェア45%の獲得を掲げて量産体制を築いてきた。しかし、中国市場で地場メーカーを中心に低価格化が予想以上に急スピードで進んだ影響で、同社のイーアクスル事業は赤字が続く。23年10月には中国市場に特化した戦略を転換し、日本や欧米市場の開拓を強化すると発表した。

ボストン・コンサルティング・グループの金子陽平マネージング・ディレクター&パートナーは「EVの販売で出遅れている日系自動車メーカーにとって、イーアクスルのコスト削減は大きな課題の1つ」と指摘する。技術進化が急速に進む一方で、早くもコモディティー化の兆しが出てきている点が壁となる。

日本勢の勝機はどこにあるのか。変速機大手のジヤトコ(静岡県富士市)の大曽根竜也最高技術責任者(CTO)は「後発組となるが、競争力を十分発揮できる」と意気込む。同社は日産子会社で、日産と共同開発中のイーアクスルは25年の搭載を目指す。静岡県富士市の本社に隣接する工場では量産準備が進む。

ジヤトコの工場では日産と共同開発するイーアクスル量産の準備が進む(写真:ジヤトコ提供)

共同開発とは別に、日産以外に販売するイーアクスルも独自に開発中だ。エンジンの動力をタイヤに伝える変速機の中でも、CVT(無段変速機)では世界シェアトップのジヤトコ。ギア(歯車)の設計や加工、材料などのノウハウ技術を生かせば、「さまざまなサイズのEVにも載る小型品を開発できる」(大曽根氏)。

同氏によると、次世代のイーアクスル開発には高度な熱マネジメントとの連携が不可欠になる。熱マネジメントとは、電池のエネルギーを無駄なく活用するため、冷暖房や各種機器の間で熱をやり取りして温度を適切に管理する技術だ。高度なイーアクスルは走行時に出る熱を自身で制御することで、車両全体の熱管理にも貢献できる。ジヤトコは自動車メーカーと二人三脚で車両開発に携わってきた経験を生かす。

圧倒的なコスト競争力をつけたサプライヤーが汎用部品を供給することで、EVの時代には水平分業化が進むとみられていた。一方、完成車メーカーが系列部品大手と結束を強める中、垂直統合型の体制づくりも進む。

イーアクスルは各社開発が乱立している初期段階で、勝ち筋はまだ見えていない。日本の自動車・部品大手の多くは、25年以降の次世代品開発に本格的に参入する。その際に有効となるのは、「搭載モデル間での標準化や、場合によっては自動車メーカーをまたいだ共通化」(ボストン・コンサルティング・グループの金子氏)となる。電池では主導権を握れなかった日本勢にとって、イーアクスルの開発競争はEVの商品力を高めるうえで負けられない戦いになる。

(日経ビジネス 薬文江)

[日経ビジネス電子版 2024年4月16日の記事を再構成]

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