このほど学術誌「Wilson Journal of Ornithology」に発表された論文によると、少なめに見積もっても、毎年12億8000万〜34億6000万羽の鳥がガラスに衝突して命を落としている可能性があるという。この数字は、2014年に発表された以前の推定値より350%も多い。それでもこれは米国のみの数字であり、世界でははるかに多くの鳥たちが死んでいるはずだ。
「忌々しいことに、世界はガラス窓だらけです」と、米ミューレンバーグ・カレッジの鳥類学者で、2024年4月8日付けの論文の筆頭著者であるダニエル・クレム氏は言う。
鳥が窓ガラスに激突したときの衝撃はかなりのものだ。ガラスは振動し、鳥は骨折し、脳出血を起こすこともある。
とはいえ、衝突で即死する鳥はごく一部で、多くは意識を取り戻し、傷ついた体で飛び去ってゆく。意識を失っている間に捕食者に捕まってしまう鳥もいるが、その数は不明だ。この点が鳥の衝突死の研究を難しくしている。
5年間で1200時間以上の観察
従来の研究では、ガラスに衝突して死ぬ鳥の数は、建物の窓やガラス製の構造物のそばで死んでいた結果にもとづいて推定されてきた。
これに対してクレム氏らは、ペンシルベニア州ヘニングスビルの森のはずれに鳥の餌台を設置して鳥を集めた。そして、餌台から10mほど離れた場所にガラスをはめた窓枠を並べ、その近くで鳥たちがどのように行動するかを観察した。観察時間は5年間で1200時間以上に及んだ。
興味深いことに、窓ガラスに衝突した1300羽以上の鳥のうち、50%は羽毛や埃や血痕などの痕跡を一切残していなかった。このことだけでも、窓ガラスへの衝突による鳥の死の多くが気づかれないままになっていることが分かる、とクレム氏らは言う。
衝突により即死した鳥は全体の14%だった。さらに14%の鳥が、ガラスに衝突して5分以上意識を失い、やがて回復して飛び去ったが、後に死んだ可能性があった。
「私たちの研究で命を落とす鳥がいるのは本当に残念です」とクレム氏は言うが、鳥たちが現実世界で直面するリスクを特定し、それを最小限に抑える製品を開発するためには、このような研究が必要なのだと強調する。氏の実験プロトコルはミューレンバーグ・カレッジの動物飼育・使用委員会の承認を得ており、米国魚類野生生物局とペンシルベニア州狩猟委員会の許可も得ている。
実験とは別に、クレム氏らは米国北東部と五大湖地域の10カ所の野生動物リハビリ施設からもデータを集めた。そのデータによると、窓ガラスに衝突したとして施設に運ばれてきた約9000羽の鳥のうち、70%が最終的に死亡したという。
窓に木々や空が映れば鳥はぶつかる
過去半世紀にわたり鳥の窓ガラスへの衝突を研究してきたクレム氏は、この分野の第一人者で、研究をまとめた著書『Solid Air: Invisible Killer - Saving Billions of Birds from Windows(固い空気:見えない殺し屋――数十億羽の鳥たちを窓から救う)』もある。
クレム氏によると、世界中の窓の99%は光を反射するという。「完全に透明な窓ガラスでも、室内が暗いときには、外側は鏡のようになります」。そして、窓の表面に木々や空が映っていると、鳥たちはそこにものがあるとは思わずに飛び続け、激突してしまう。
「窓の危険性を強調するのは良いことです」と、クレム氏の研究を評価するのは、米カーネギー自然史博物館パウダーミル自然保護区の鳥類研究コーディネーター主任であるルーク・デグルーテ氏だ。氏は、衝突の半数が痕跡を残さないという観察結果も称賛している。氏もこうした状況を何度か目撃しているが、科学的な文献で認められたことはないからだ。
ただしデグルーテ氏は、この研究の計算については注意を促している。例えば、野生動物リハビリ施設の統計データは専門家による検証を受けていない。だからといってデータが正しくないということにはならないが、デグルーテ氏は自身の調査からリハビリの成功率には大きなばらつきがあることを知っている。
「私のところのリハビリ担当者の1人は、90%以上という驚異的な回復率を誇っています」と氏は言う。「70%という死亡率は高いと思います」
窓ガラスから鳥たちを守る簡単な方法とは
良いニュースもある。窓ガラスへの鳥の衝突は簡単に防げるのだ。
クレム氏もデグルーテ氏も、窓ガラスに貼って鳥に気づかれやすくするフィルムやコーティング、パターン、ステッカーなどの新製品をテストする実験を行っている。
スポーツスタジアムや高層ビルへの鳥の衝突を防ぐには高度な加工と政治的な意志が必要かもしれないが、鳥に優しい消費者が自宅に設置できる安価な製品はたくさんある。
例えば、窓に紐をたらしたり、窓ガラスに模様つきの透明フィルムを貼ったりすれば、窓の存在を鳥に気づかせ、衝突を防ぐことができる。
「その気になれば、明日にでも鳥たちを救えます」とクレム氏は言う。
文=Jason Bittel/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年6月10日公開)
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