「私の視点」 山本利重さん(市民気候ロビー・ジャパン会員)
今年も梅雨入り前から真夏日に見舞われた。気候変動による平均気温の上昇や熱波の影響は、今後深刻さを増していく。主な原因は化石燃料の使用による二酸化炭素(CO2)の排出だ。しかし資源の乏しい日本は化石燃料を輸入に頼っており、2022、23年の輸入額は年間20兆~30兆円超にのぼった。液化天然ガスなどの価格高騰や円安もあって国富の海外流出が進み、経済にもダメージを与えている。一刻も早く脱炭素社会に移行するべきである。
米国の市民団体「市民気候ロビー」は50カ国以上に支部があり、その一つ「市民気候ロビー・ジャパン」は20年から、脱炭素社会に向けた勉強会や対話をしている。私たちが訴えてきたのが、カーボンプライシング(炭素課金)と家計還元だ。
炭素課金は一般的に、CO2の排出量に応じ税金やコスト(炭素価格)を課して、より排出量の少ない製品やサービスの選択を促す政策を指す。海外で先行しており、例えばスウェーデンの炭素税はCO21トンあたり100ドルを超えている。
炭素課金の仕組みによっては、課税や製品・サービスへの価格転嫁により消費者の負担が増すケースもある。そのため国民、特に収入に占める光熱費の割合が高い低所得者層の負担を軽減する措置は必須だ。
これに対しカナダでは、炭素税収の90%を国民に均一に還元するカーボンキャッシュバックを実施する。全世帯の8割は、払う炭素税を上回るお金が還元される。例えば、アルバータ州の子供2人家庭では、年間の支出増加が598カナダドルに対し、還元額は953カナダドルだ。富裕層ほど化石燃料を多く消費するため、排出削減とともに所得格差対策にもなる。
日本でも脱炭素に向けた取り組みが始まっているが、諸外国に比べ小規模にとどまる。石油石炭税に上乗せされる炭素税(地球温暖化対策税)は12年に導入したが、CO21トンあたり289円と少額だ。政府は昨年、GX推進法を作って炭素課金の本格導入を決め、28年度から化石燃料の輸入事業者に「賦課金」を、33年度から化石燃料を使用する電力事業者に「負担金」を課す。だが現状では、そこに「国民負担の軽減」という視点は欠けている。集めた賦課金や負担金は、脱炭素技術開発を支援するための移行債の原資にすると決められているのだ。
GX推進戦略の見直しが今夏から始まる。炭素課金の規模を拡大すると同時に、家計負担が増えないように課金の政府収入から国民に還元するカーボンキャッシュバックを政策化できないか。それが市民の意識変革や、公平でスムーズな脱炭素社会への移行を実現するすべになるのではと考える。
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