記者会見で説明する量子科学技術研究開発機構(QST)の平林敏行主幹研究員(東京都千代田区)

量子科学技術研究開発機構(QST)の平林敏行主幹研究員らは、目で見た物を記憶する脳の回路をサルで明らかにした。脳の側頭葉と前頭葉にある特定の部位が互いに電気信号をやりとりすることで、短期的な視覚記憶を作り出していた。認知症などの記憶力低下を抑える治療薬の開発などに役立つ可能性がある。

記憶は脳にある複数の神経細胞や脳部位が連携してつくり出す神経回路に保存されると考えられている。見た物を覚える視覚記憶は過去の研究から、側頭葉にある「側頭皮質前方部」が担うことが知られている。だが、この部位が別の部位とどのように接続し、視覚の情報を処理するのか、詳細な仕組みは不明だった。

研究チームはサルを用いて、視覚記憶で活動する脳の領域を特定した。サルに対しモニターで特定の模様を0.3秒だけ表示し、一定の時間をおいて2つの模様を提示し、最初に表示された模様を選択すればジュースを与える2択問題を解かせた。

このとき、サルが模様を選択する際の脳の活動状態を画像検査などで調べた。その結果、側頭皮質前方部のほかに眼の裏側あたりにある「眼窩(がんか)前頭皮質」も活動していた。

人工的に眼窩前頭皮質の神経活動を抑えるような処置をすると、最初の模様提示から、2択問題を表示するまでの時間が長くなるにつれ正答率が下がった。実験では9割だった正答率が8割まで落ちていた。正常なサルでは正答率の低下がほとんどみられないという。

認知症では直近の出来事を忘れる短期記憶障害が起きる場合もある。散歩中に見た景色や直前に出会った人を思い出せなくなったりする。

研究チームはヒトとサルは同じ霊長類で脳の構造も似ており、ヒトでも同じ仕組みがあるとみている。「眼窩前頭皮質などの活動を高める機器や医薬品などに応用できれば、視覚の記憶力改善につながる可能性がある」(平林氏)。研究成果をまとめた論文は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載された。

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