京都大学iPS細胞研究所の高山和雄講師らの研究チームは、iPS細胞から小腸によく似た構造のモデルをつくることに成功した。小腸の粘膜障害を伴うノロウイルスなどの感染症の研究や治療薬開発に役立つ。
小腸は食べ物の消化と栄養の吸収を主に担う。体のあらゆる組織に変化できるiPS細胞から小腸に似た組織を作れれば、病気の研究に役立つ。これまで、慶応大学などが栄養や水分の吸収を担う上皮細胞のみからできた小器官をつくることに成功していた。
ただ、実際の小腸には存在する粘液を分泌する層やじゅう毛構造、細胞間を埋める間質層などは再現できていなかった。小腸の働きなどがうまく再現できず、モデルを使った感染症の研究には限界があった。
京大の研究チームは、小腸内でみられる体液のゆっくりとした流れ「間質流」が細胞の分化に重要だと考えた。流れる液体の中に細胞をさらすことができる素子を使い、分化が一定程度進んだたくさんのiPS細胞を、間質流と同じくらいの速さで培養液にさらした。すると1カ月足らずでじゅう毛組織や粘液の分泌層、間質層などに分化した。モデルの大きさは長さが1センチメートル程度、幅が1ミリメートルという。
高山講師は「小腸の多層的な構造をつくれたのはこれが初めてで、より実際の小腸に近いモデルになった。ノロウイルスや腸管出血性大腸菌O157などの腸管感染症や、その治療薬の研究を加速させたい」と語った。研究成果は米科学誌「セル・ステム・セル」に掲載された。
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