異種移植について記者会見する米マサチューセッツ総合病院の河合達郎医師(30日、川崎市)

ブタの臓器をヒトに移植する「異種移植」の手術を執刀した米マサチューセッツ総合病院の河合達郎医師は30日、川崎市内で記者会見し、腎臓病を抱える日本の患者を対象とした異種移植について「可能性を探っている段階」と話し、米国で実施する構想を明らかにした。異種移植後も長く生存できることを示し、実用化を目指す。

30日に川崎市の明治大学生田キャンパスで、同大発スタートアップのポル・メド・テック(川崎市)と共同会見した。河合医師は3月、遺伝子を改変したブタの腎臓を世界で初めて治療目的で米国の患者に移植した。患者は約2週間後に退院し体調も良好だったが、もともと心臓病の持病があり、2カ月後に持病の悪化で死亡した。

ブタ臓器を移植するだけでは患者の免疫が臓器を拒絶してしまうため、免疫抑制剤で拒絶反応を抑える。患者の死亡後に腎臓を調べたところ拒絶反応の痕跡はなかったという。河合医師は「適切に免疫抑制できる自信がついた。今後計画する腎臓移植の2例目も自信を持って臨める」と話した。

一方で心臓が悪い患者では腎臓移植に成功しても心臓の悪化で死亡するリスクがあると指摘した。その上で「2例目では2カ月間よりもずっと長い期間の生存を目指す。そのため慎重を期して心臓などの状態が良い患者を探している」と話した。

米国以外からも患者を募ることを検討する。ただ、移植後の患者の状態を管理するには高度な医療技術がいるため、日本の医療機関との連携を想定する。規制当局である米食品医薬品局(FDA)との協議などの具体的な取り組みはこれからだという。

異種移植を実用化できれば、負担の大きい人工透析を避けて生活の質を高められる可能性がある。河合医師は「移植時には費用が大きくかかるが、その後の維持管理にかかる費用は透析よりも低いと考えられ、トータルではコストが抑えられると思う」と話した。

日本で腎臓移植を受けるには15年程度待つ必要があり、移植数は年約200例にとどまる。米国では1つの医療機関で同規模の移植をしているという。河合医師は「移植の選択肢が絶望的に少ない状態を打開するため、異種移植は日本でこそ重要だ」とみる。

河合医師が移植で利用したブタは米スタートアップのイージェネシスが開発した。ポル・メド・テックは2月、このブタのクローンを国内で誕生させた。河合医師からは移植の実施経験をもとに臨床応用に向けたアドバイスを受けているという。

国内では京都府立医科大学などが24年10月にも、ポル・メド・テックのクローンブタの腎臓をサルに移植して安全性を検証する。大阪大学や福岡大学もそれぞれ心臓や膵臓(すいぞう)組織の動物への移植実験を計画する。ヒトへの移植は早ければ数年以内に実現する可能性がある。今後の実用化に向けては有効性や安全性の確認のほか、社会の理解を得る取り組みや倫理面などの検討が必要になる。

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