東京大学の研究チームは徹夜などで睡眠不足になると脳が一定の睡眠量を確保しようとする仕組みを動物実験で解明した。起きている時間が長いと他の神経細胞の活動を抑える「抑制性神経細胞」の働きが強まり、眠気につながっていた。働きの強さを調べる手法を開発できれば不眠症などの患者の状態を把握しやすくなり、よりよい治療につながる可能性がある。
東大の上田泰己教授、大出晃士講師、米ジョンズ・ホプキンス大学の昆一弘博士研究員(研究当時は東大研究員)らの共同研究の成果で、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに論文が掲載された。
ヒトは徹夜をすると朝や昼でも眠気を感じ、この時寝ると睡眠が長く深くなりやすい。脳が一定の睡眠量を確保しようとする仕組みがあるとみられる。普段の生活の中では当たり前のように感じる現象だが、詳しい仕組みは分かっていなかった。
研究チームは大脳皮質の抑制性神経細胞の一種に着目し、この神経細胞の活性化が長く深い眠りと関わることを見つけた。この神経細胞を活性化するとマウスは十分な睡眠をとっているのに長く寝た。逆に睡眠不足のマウスで抑制性神経細胞の働きを抑えると、その後の睡眠時間は睡眠が足りているマウスと同程度になった。
さらに詳しく調べると、抑制性神経細胞のもつ「CaMKⅡ」という酵素の活性が高まることで働きが強まると分かった。この酵素に作用する物質をマウスに投与し、酵素の働きを抑えると、睡眠不足時でも長く深い眠りが起きづらくなった。
研究チームはこの酵素が生体内で覚醒時間を計るタイマーの役割を果たしているとみている。酵素が神経細胞を活性化する詳しい仕組みはまだ分からない。今後、酵素が作用する分子などの研究を進める。
この酵素の活性の強さや、作用する分子の状態を調べる手法を開発できれば、人の眠気を数値化しやすくなる。今回の研究は睡眠不足時の眠気に着目しており、今後通常時の眠気についても詳しく調べる。
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