巨大テックは自社のAIモデルの学習や対話型AIの強化に使うコンテンツの囲い込みを進めている。
特に米オープンAI(Open AI)はこの1年、様々な企業とコンテンツや製品の提携を結んでいる。
こうした契約の対価は数億ドルに上る場合もある。特にオープンAIと米メディア大手ニューズ・コーポレーションとの5年契約の金額は、「オープンAIの技術使用の対価」も含めると2億5000万ドルを超えるとみられている。
確認済みのライセンス契約
オープンAIに加え、米マイクロソフトや米グーグルなどの巨大テックもパブリッシャーなどのコンテンツ提供者と提携している。
未上場のAI企業の米レカAI(Reka AI)は画像販売の米シャッターストックと、同米ランウェイ(Runway)も画像販売の米ゲッティイメージズとそれぞれ契約している。
提携交渉も相次いでいる。メディアの報道によると、米アップル、米アマゾン・ドット・コム、米デザインソフト大手アドビはいずれも様々なパブリッシャーと協議している。グーグル傘下の動画投稿サイト「YouTube」もソニー・ミュージックエンタテインメントや米ワーナーミュージック、米ユニバーサル・ミュージック・グループなどの音楽各社とAI学習用の楽曲の使用許可について協議している。
契約額
ベンダー各社のデータから契約額の手がかりを得た。
・ニュース&メディア:マイクロソフトは出版・イベント運営大手の英インフォーマと初年度約1000万ドル相当で提携した。米メディア「ジ・インフォメーション」によると、オープンAIはニュース記事使用の対価として、一部メディアに年100万〜500万ドルを提示している。
・ユーザー生成コンテンツ:オンライン掲示板の米レディットは24年1月の上場目論見書(フォームS-1)で、「総契約額は2億300万ドル、期間は2〜3年の」データ使用許諾契約を結んだと報告した。「24年とそれ以降に最低6640万ドルの売上高を得る見通しだ」としている。グーグルが2月に発表したレディットとの6000万ドルの契約は、既にその大半を占めている。
・画像:シャッターストックが発表した24年1〜3月期の「データ、販売、サービス」部門の売上高は、前年同期比90%増の4050万ドルに達した。画像の使用許諾契約が寄与したようだ。シャッターストックの巨大テック企業とのライセンス契約額は当初は2500万〜5000万ドルの範囲だったが、多くはその後引き上げられている。
使用許諾契約が増えている主な要因
AIモデル開発各社が使用許諾契約を相次いで結んでいる主な理由は2つある。
1)モデル学習用の良質なデータの探索:AIモデル開発各社はすぐに入手できるコンテンツを駆使して、AIのトレーニングデータを確保するために競争している。研究者によるとインターネット上の良質な文書データは26年には使い尽くされる。一方、独自の情報源は入手しづらくなっている。例えばレディットは1年前、API(異なるシステムを連携させる仕組み)を有料化し、事実上封鎖した。
2)訴訟や評判に傷がつく可能性を回避 :AIモデル開発各社はデータ使用を巡る法的・倫理的問題への対応を迫られている。例えば、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)はAIモデル学習に記事を無断で使ったとして、オープンAIとマイクロソフトを著作権侵害で訴えている。
一方、独自のデータやコンテンツを持つ企業にとっては、収益面と検索で目に触れやすくなる点がコンテンツ使用許諾契約を結ぶ主な要因になっている。
・収益源の多様化:例えば、レディットとシャッターストックは決算説明会で触れているように、データ使用許諾契約の締結に積極的だ。
・進化しつつある検索で関連性を維持:コンテンツを提供する企業は、AIへのデータ使用許諾契約により読者層の拡大が見込める。例えば、米誌アトランティックと米VoxメディアのオープンAIとの契約により、オープンAIのユーザーは引用元のリンクが付いた両メディアの記事を読めるようになる。アトランティックのニコラス・トンプソン最高経営責任者(CEO)は、露出が増えるメリットについて「生成AI検索は将来、ウェブナビゲーションの基本的な手段の一つになると確信している」と期待を示した。
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