量子科学技術研究開発機構(QST)などが仙台市の東北大青葉山キャンパスに整備を進めてきた次世代放射光施設「ナノテラス」が4月、運用を開始した。特殊なX線(放射光)を使って、肉眼では見分けられない物質の性質や機能を100万分の1ミリの「ナノレベル」で分析。食品から医療まで幅広い分野での活用や技術革新に期待が高まる。

長さ110メートルの線型加速器と1周349メートルの円形加速器からなるナノテラスは、X線の中でも波長の長い軟X線に強みを持つ。官民地域パートナーシップにより国が約200億円、自治体や企業などが約180億円を負担した。

昨年12月、放射光取り出しに初めて成功。加速させる電子の量を徐々に増やしながら機器の調整を行い、今月1日から本格運用を開始した。QST広報グループの加道雅孝リーダーは「創薬や半導体などの分野で威力を発揮する。地元の産業界や大学からの期待に応えていきたい」と述べる。

コンタクトレンズ最大手のメニコン(名古屋市)は運用開始に合わせ、東北大と共創研究所を設立。レンズの表面解析で得たデータを基に、付け心地などを追求する。

メニコン共創戦略部長の伊藤恵利さんは、「レンズ素材を作る炭素や窒素などの分析に適しているのが軟X線。理想のレンズが実現できるのではとわくわくしている」と期待を寄せる。

ナノテラスは整備だけでなく、運用面でも産学官による連携が特色の一つだ。受け皿となる「光科学イノベーションセンター」は、1口5000万円の加入金を支払えば、施設を10年にわたり年間200時間活用できる「コアリション(有志連合)」制度を導入。150社を超える企業のほか、大学や研究機関などの参加を見込む。

製品のトラブルなど企業側から持ち込まれる課題の解決に、協力できる研究者をマッチングさせ、新製品や新規事業の開発などにつなげることが狙いだ。同センター理事長を務める東北大の高田昌樹教授は「ナノテラスはイノベーションに対する実験場になる。企業が仙台に集まることで、(東日本大震災からの)復興をさらに加速できる」と話した。

上空から見た次世代放射光施設「ナノテラス」(ナノテラス広報グループ提供)

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