京都大学の浜地格教授らの研究チームは記憶や学習を制御する脳内のたんぱく質の関わり合いを、生きた動物で検出できる手法を開発した。特殊な試薬を脳に注入して光を当てると、神経細胞が情報を伝達する際に関わるたんぱく質を抽出できる。たんぱく質同士や神経細胞との関わり方などの解析が進めば、認知症などの病気の解明につながる可能性がある。
ヒトの脳内には約1000億個の神経細胞があり、シナプスという接続部分でつながっている。シナプスからは情報を伝達するための物質が放出されており、それが別のシナプスと結合することで情報が伝わる。情報伝達物質の伝わり方は神経細胞の周りにある様々なたんぱく質の相互作用などによって制御されており、その解明が試みられてきた。
近年、こうしたたんぱく質に遺伝子操作によって特定のたんぱく質をくっつけることでほかのたんぱく質と区別し、抽出する手法が注目されている。ただこの手法は遺伝子操作をするため細胞の中の環境を変えてしまったり、長い時間がかかったりするのが課題だった。
研究チームの新たな手法では、特殊な試薬を脳に注射したうえで光ファイバーで光を5分前後照射する。試薬は光に反応してたんぱく質にくっつくので、これを抜き出して分析することで目的のたんぱく質を特定できる。マウスで実験したところ、記憶や学習に関わるといわれる既知のたんぱく質を多数抽出できたという。
開発した手法は脳に直接試薬を注入するため、ヒトにそのまま応用するのは難しい。ただサルなどの動物から抽出したたんぱく質の関わり合いを調べることで「ヒトの認知症やうつ病、てんかんなどの病気の仕組みや治療法の解明につながる可能性がある」と研究チームの京大の田村朋則講師は話す。
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