国立がん研究センター中央病院は健康な人の便から採取した腸内細菌をがん患者に移植し、がん免疫薬の効果向上を狙う臨床試験(治験)を始めると発表した。腸内細菌の働きは免疫機能と深く関わり、細菌群のバランスを改善することで薬の効果が高まる可能性がある。

8月中に患者の登録を始め、約1年かけて安全性を検証する。がん患者に腸内細菌を移植する治験の本格的な実施は国内初とみられる。

臨床試験について説明する国立がん研究センター中央病院の加藤健科長(中央)ら(東京都中央区)

順天堂大学やバイオスタートアップのメタジェンセラピューティクス(山形県鶴岡市)と共同で実施する。手術でがんを完全に取りきるのが難しかったり、手術後に再発したりした食道がんや胃がん患者45人を対象にする。こうした患者の治療ではがん免疫薬の「オプジーボ」などを使うが、効果が出る患者は数割にとどまる。

人の腸内には1000種類以上、約40兆個もの細菌がおり、細菌が作り出す物質などを通して人の免疫機能に影響を及ぼす。がん免疫薬の効果が出ない患者では腸内細菌の多様性が低いと分かっており、移植で状態を改善すれば治療効果を高められる可能性がある。

順天堂大とメタジェンセラが患者に投与する腸内細菌を準備する。血液検査で健康だと確認した人に便を提供してもらう。便内に寄生虫やウイルス、耐性菌などの病原体がいないかどうかを調べた上で腸内細菌を取り出し、国立がん研究センター中央病院に送る。

同病院ではまず患者に抗菌薬を投与して腸内細菌をいったん減らす。次に準備した腸内細菌を内視鏡で腸内に投与し、さらにオプジーボなどで治療する。

がん免疫薬の効果向上を狙った腸内細菌移植の研究は海外が先行する。2018年には米ピッツバーグ大学などが皮膚がん患者で治験を始めた。カナダやフランスでも治験が進む。

オプジーボは「免疫チェックポイント阻害剤」の一種で、がん細胞が免疫細胞にかけているブレーキを外し、がんに対する攻撃力を高める。18年にノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授の研究成果をもとに開発された。

ただ免疫チェックポイント阻害剤は効果が出る患者が限られる。効果を高める手法や効く可能性が高い患者の予測方法などが研究されている。

がん分野以外でも患者に腸内細菌を移植する研究が進む。日本では23年、順天堂大医学部付属順天堂医院などが潰瘍性大腸炎の患者を対象に先進医療を始めた。米国では22年、病原性の腸内細菌による大腸炎の治療法として承認された。

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