メイヨー・クリニックは米大手医療機関の中でAIの利用態勢が最も整っている=同機関のサイトから
AI(人工知能)が医療分野で果たす役割が拡大している。診断改善や手術支援、事務作業の効率化など、医療の多岐にわたる分野でAIが活用されつつある。医療機関によるAI関連企業への投資も増えている。CBインサイツが革新性と実行性の2つの観点から、米国の主要医療機関のAI対応度をランク付けした。 日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

AIは何年も前から医療テックの要であり、生成AIはこのところ、変革的なシステムを大量に生み出している。

診察時の患者と医師の会話の文書化から手術ツール、デジタル創傷ケアに至るまで、AIシステムは医療提供者が患者に集中し、診断を改善し、手術などの処置の新たな方法を見いだすのを支援している。

CBインサイツはどの医療機関がこうした移行の準備が最もできているかを判断するため、「医療機関のAI対応指数」の提供を開始した。

米国のトップ民間医療機関(病院数に基づく)を対象に、「革新性」と「実行性」の2つの柱に基づいて急速に進化するAIを活用する態勢がどれほど整っているかをランク付けした。

革新性:斬新なAI機能の開発や取得の実績を測定。CBインサイツの特許、買収、投資活動などのデータに基づいてスコアを算出した。AIに特化した研究センターの有無も考慮した。

実行性:AIを活用した製品・サービスを臨床診療に取り入れる力、ビジネスやバックオフィス部門など院内全体にAIを展開する力を測定。他社とのビジネス関係、製品投入についてのメディアの言及回数、決算説明会の記録などのCBインサイツのデータに基づいて算出した。

以下では、AIの利用態勢が最も整っている25の医療機関(子会社やベンチャー部門を含む)を紹介する。

医療機関のAI対応指数

リーダー

米大手医療機関でAIの利用態勢が最も整っているのはメイヨー・クリニックだった。革新性の水準が比較的高かったことが寄与した。

メイヨーの革新性は特許活動にも表れている。例えば、心血管健康や腫瘍学などの分野で出願している特許は50件以上に上る。臨床文書の作成や、データに基づいて意思決定をする手術インテリジェンスなど、医療・ヘルスケアの様々な活用事例を手掛けるAI企業にも投資している。

2位はインターマウンテン・ヘルス、3位はクリーブランド・クリニックだった。

インターマウンテンはリアルタイムの臨床意思決定支援プラットフォームを独自開発している。一方、クリーブランド・クリニックは病理アルゴリズムを活用してトランスレーショナル・リサーチや臨床ケアを強化するために米パスAI(PathAI)と提携するなど、AIを焦点としたビジネス関係が多く、実行性が際立っている。

出所:CBインサイツ(クリーブランド・クリニックのビジネス関係)

革新性

革新性のスコアはAIに特化した研究センターの有無、AI関連の特許、2019年以降の買収及び投資活動(24年5月29日時点)に基づいている。

投資件数が最も多いのはメイヨー・クリニックだ。その投資先から、医療・ヘルスケアでAIが勢いを増しつつある分野がわかる。例えば、23年末には、生成AIを活用して診察時の患者と医師の会話から臨床文書を作成する米アブリッジ(Abridge)の資金調達ラウンドに、CVSヘルス・ベンチャーズ、米国心臓病学会、カイザー・パーマネンテ・ベンチャーズなどの投資家とともに参加した。コンピュータービジョンとAIを使って外科医が手術動画から知見を引き出し、それに応じた行動がとれるよう支援する米シアター(Theator)などにも出資している。

AI投資が2番目に活発なのはインターマウンテン・ヘルスだった。ベンチャー部門のインターマウンテン・ベンチャーズを通じてAI患者エンゲージメント基盤の米ジャイアント(Gyant)に出資し、その後買収した。ベンチャー部門は直近では、リキッドバイオプシー(血液などの体液をもとに病気を診断する技術)を手掛ける米フリーノーム(Freenome)に出資している。

特許件数では、メイヨーとクリーブランドが抜きんでている。

メイヨーが力を入れている分野の1つは心血管健康だ。22年には機械学習モデルを使って心電図のデータを分析し、患者が発作を起こす可能性を予見するシステムで特許を取得した。

出所:CBインサイツ(メイヨー・クリニックの特許)

一方、クリーブランド・クリニックは機械学習を使って放射線治療の放射線量を個別化し、がん治療の精度と効果を高める意思決定支援システムにより特許を得ている。

今回の評価の対象となった大手医療機関は買収意欲が高くなく、過去5年間での買収はプロビデンスによる1件だけだった。プロビデンスは19年、ブロックチェーン(分散型台帳)技術とAIを活用して医療費請求、追跡、回収など医療機関の収益サイクル管理(RCM)を合理化する米ルメディック(Lumedic)を買収した。

実行性

実行性のスコアはAI関連のビジネス関係、製品投入についてのメディアの言及回数、19年以降の決算説明会の記録(24年5月29日時点)などのCBインサイツのデータに基づいている。

評価の対象となった医療機関の大半がAI企業とビジネス関係を築いている。

例えば、24年に入ってからは、

・メイヨー・クリニックは米テックサイト(Techcyte)と提携し、医療機関が病理検査でAIを活用できるよう支援するプラットフォームを開発した。

・バナー・ヘルスは米リガード(Regard)と提携し、カルテの作成やランダムなレビューなど重要な作業を自動化し、臨床医の事務負担の軽減に取り組んでいる。

・ジョンズ・ホプキンス病院はイスラエルのヘルシー・ドット・アイオー(Healthy.io)と提携し、患者にデジタル創傷ケアサービスを提供している。

医療機関の多くは非営利組織(NPO)で、上場企業とは財務報告要件が異なるため、決算説明会を実施している機関はごくわずかだ。だが、医療機関の決算説明会は、病院でAIがどう使われつつあるかがわかる貴重な機会だ。

例えば、コミュニティー・ヘルス・システム(CHS)の臨床担当上級バイスプレジデント、ミゲル・ベネット氏は23年10〜12月期の決算説明会で、臨床文書の作成を合理化するためにAIをどう導入できるかを示した。AIを活用し、患者の退院時に地元のサポート体制などの関連情報を提供していることも明らかにした。この取り組みは入院日数の短縮など既にプラスの効果を生んでいる。

出所:CBインサイツ(CHSの決算説明会の記録)

AI対応が進んでいる25の医療機関のうちの4つが、AIを活用した製品を開発している。

例えば、インターマウンテン・ヘルスは23年、AIを活用して患者の診断と治療を改善するリアルタイムの臨床意思決定支援プラットフォームを開発した。コモンスピリット・ヘルスは数カ月前、同意書を作成する院内AIアシスタント「Insightli」の利用を開始した。

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