米フェデックスは航空貨物への依存度を減らす一方で、中小企業の電子商取引(EC)や医療・ヘルスケアの大口顧客に特化した物流サービスなど高収益が見込める分野の取り込みを目指している
米物流大手フェデックスが成長のために新規顧客の開拓に向けて投資を続けている。既存の顧客を失ってでも、中小企業の電子商取引(EC)や医療分野など高収益が見込める分野の需要を取り込む考えだ。物流業界は米UPSなど競合が多い中で、フェデックスが投資を進める3つの分野をCBインサイツがまとめた。 日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

米物流大手フェデックスにとって、数十億ドルの契約解消は吉と出るかもしれない。

同社は2024年9月、米郵政公社(USPS)との年20億ドル相当の契約を同業の米UPSに譲り渡す。今後は減益になるものの、最近の業績は市場予想を上回っており、USPSが契約を更新しない方針を発表して以降、フェデックスの株価は過去最高値に達した。

フェデックスはコスト削減と輸送網の再構築により維持費がかさむ航空貨物(USPSはこれを主に活用していた)への依存度を減らしており、長期的には利益が望める分野への投資を強化する余地が増している。

次のフェデックスを担う3つの分野は以下の通りだ。

世界での顧客開拓を支援するツールにより、利益率の高い中小のEC企業を獲得する。既存機能にとどまらず、通関手続きなど中小企業の越境物流を支援する企業への投資や提携を進めている。

医療・ヘルスケアの大口顧客に特化したサービスを開発している。この業界特有のニーズに対応した物流サービスの開発と投入を進めている。

自動化と車両の電動化に懸けている。物流の効率化、燃費改善、維持費削減をもたらす車両の電動化とロボットに長期投資している。

以下ではこの3つの分野を掘り下げ、各分野の主な原動力について調べる。

世界の顧客開拓を支援するツールにより、利益率の高い中小ECを獲得

中小企業のECはフェデックスの成長に欠かせないけん引役に浮上している。同社は、ECが小口荷物の伸びの大半を占めるとみている。

ライバルのUPSは米アマゾン・ドット・コムとUSPSとの超大口契約への対応に力を入れており、中小企業の顧客の拡大がフェデックスの重要な目標になるだろう。

中小企業の顧客の荷物の取扱量は超大口契約よりも少ないが、1個当たりの利益率は大幅に高いため、この市場でのシェア拡大は重要となる。

フェデックスが狙う中小企業の「痛点(不便や面倒な点)」は海外配送だ。そこで、通関手続きを簡素化し、配達を効率化する技術を手掛ける企業への投資や提携を進めている。

24年初めには英国と欧州連合(EU)の小売りの通関手続きを簡素化するため、米ゾノス(Zonos)と提携した。関税とその他の税金、手数料の一括前払いや、越境輸送の税務コンプライアンス(法令順守)の確保により、予期せぬ費用や海外の買い物客への遅配を減らす。

フェデックス、中小ECを開拓 出所:CBインサイツ(ゾノスとのビジネス関係についての分析)

フェデックスは米シッポ(Shippo)や米イージーポスト(EasyPost)など複数の業者を扱っている配送管理システムとも提携し、こうした企業のプラットフォームでフェデックスの配送を予約した中小企業に料金割引サービスを提供している。

医療・ヘルスケアの大口顧客に特化したサービスを開発

医療・ヘルスケア業界では分散型臨床試験(治験)や遠隔患者モニタリングなどの拡大により、温度管理や迅速な配送が必要な荷物を管理された状態で安全に送るため、物流会社を活用するようになっている。

フェデックスにとって、これは特に重要な分野だ。

同社は最近の決算説明会で、リアルタイムの監視と介入によって荷物の遅配や温度変化などサプライチェーン(供給網)でのリスクを低減するサービス「フェデックス・サラウンド」だけで、医療・ヘルスケア部門の顧客からの売り上げが10億ドルを超えていることを明らかにした。

フェデックス、治験への注力により医療・ヘルスケア事業拡大目指す 出所:CBインサイツ(フェデックスの24年3〜5月期決算の説明会)

フェデックスは世界の戦略拠点に、医療関連に特化した配送センター「ライフサイエンスセンター」も開設している。直近では24年7月に欧州にオープンした。この施設は治験関連の物流など医療・ヘルスケア部門の厳しい要件に対応した設計になっており、医療用品を最適な状態で輸送、保管する。

同社は治験サービスの未来にも目を向けている。

例えば、患者が自宅で採取したサンプルを輸送する医療診断検査用の自律型ロボットで特許を取得した。

フェデックス、自律型の治験ボットで特許取得 出所:CBインサイツ(フェデックスの特許情報)

フェデックスは医療・ヘルスケアのインフラ、特に治験機能への投資により、医療物流大手の米マーケンを16年に買収したUPSよりも競争優位に立っている。

車両電動化と倉庫自動化に重点投資

フェデックスの車両電動化と倉庫自動化への多額の投資は、車両の維持管理費の削減や業務の効率化など長期的には大きなコスト節約をもたらすだろう。

同社は30年までに集配車両を全てゼロエミッション車(ZEV)にし、購入車両を100%電気自動車(EV)にする目標を掲げている。

この目標を達成するためにスタートアップに投資し、実証を進めている。

23年にはニッケルやコバルトなどの金属を使用しない「リチウム硫黄電池」を開発する米ライテン(Lyten)のシリーズB(調達額2億ドル)に参加した。

24年に入ってからは、5月に米シフト・グループにEVトラック150台を注文したほか、英国で独メルセデス・ベンツのEVトレーラーを試験導入している。

フェデックス、30年の目標達成に向けEV導入 出所:CBインサイツ(シフト・グループとのビジネス関係)

倉庫の自動化も効率化を目指す長期事業戦略の重要な要素だ。

例えば、米バークシャー・グレイの自動仕分けシステム「RPSi」を複数の仕分け施設に導入したほか、最近では米デクステリティ(Dexterity)と提携し、人工知能(AI)を搭載したトラック荷積みロボットを採用する方針を明らかにした。デクステリティは機械学習と力制御を活用し、トラックへの荷積みを効率化している。

フェデックスは今後、訓練によりさらに多様なタスクをこなせるヒューマノイド(ヒト型ロボット)の採用に動く可能性もある。

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