独BMWの日本法人が開設した充電施設。プラゴが普通充電器を11台納入した(写真:プラゴ)

「電気自動車(EV)の販売台数が増えないから、充電器の設置が進まない。充電器の設置が進まないから、EVの販売台数が増えない」──。こうしたEV普及の「負のスパイラル(悪循環)」解消に向けて関係者が動いた。

経済産業省は2024年度の支給分から、補助金の算定方法を変更した。新たな算定基準では、EVの性能(電費や航続距離)だけでなく、日本国内におけるEV普及の貢献度を基に補助金の額を決めることにした。貢献度の1つに、充電インフラの整備が盛り込まれた。その結果、日本でEVを販売する国内外の自動車メーカーに対して、充電環境を整備することが求められるようになった。

充電インフラ整備の基準。日本でEVを販売する自動車メーカーには、充電インフラ整備への貢献度が問われている(出所:経済産業省の資料を基に日経Automotiveが作成)

EV普及の悪循環を断ち切る1つの対策として、自動車メーカーのディーラー(販売店)以外の「公共の場所」への充電器の設置数を増やし、「目的地充電」の環境を整備することが求められる。目的地充電とは、旅行時の宿泊先や定期的に通う公共施設などで、クルマを使っていない時間を利用して充電することである。ただ、クルマの開発スピードや競争力強化が求められる中で、自動車メーカーが単独で公共の場所に充電インフラを整備するのは難しい。

EV向け充電サービス事業などを手掛けるプラゴ(東京・品川)代表取締役兼最高経営責任者(CEO)の大川直樹氏は、「充電インフラの整備は今後、陣取り合戦(充電器の設置場所を各社が競い合うこと)の競争領域ではなく、自動車メーカーや充電サービス事業者などの関係者が連携して進める協調領域になる」と説明する。

動き始めた自動車メーカー

充電サービス事業者と連携して充電インフラを整備するため、自動車メーカーが動き始めた。独アウディの日本法人は24年4月、EV向けの充電施設「Audi charging hub 紀尾井町」(東京・千代田)を開設した。充電サービス事業などを手掛けるパワーエックス(東京・港)が急速充電器2台を納入。同社の充電器は4口の充電ポートを備えており、最大出力は150キロワットである。アウディ車以外にも開放している。

アウディの日本法人が開設した充電施設。パワーエックスが急速充電器を2台納入した(写真:アウディ日本法人)

独BMWの日本法人も、充電施設「BMW Destination Charging 麻布台ヒルズステーション」(東京・港)を開設した。プラゴが普通充電器11台を納入し、24年6月に充電サービスを開始した。BMW車のユーザーだけでなく、他社のEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)のユーザーも利用できる施設である。

このように充電サービス事業者は現在、自動車メーカーが充電ステーションを設けたい場所に充電器を設置し、他社のユーザーも利用できる充電サービスの拡充を進めている。プラゴはこのほかに、「(相手先ブランドでサービスを提供する)ホワイトレーベルアプリの提供」「充電器制御の仕組みの提供」「ユーザー接点の拡大」──という3つの取り組みを進める。

ホワイトレーベルでアプリを提供

このうちホワイトレーベルアプリの提供は、プラゴが提供するアプリ「Myプラゴ」をベースにしたEV充電アプリを、ホワイトレーベルとして提携先に提供するものである。同アプリは提携先企業のアプリに「ミニアプリ(アプリ内アプリ)」として載せることも可能だ。

充電器制御の仕組みの提供では、プラゴが設置した充電器をアプリなどと連携させて、課金といった機能を付加できる通信技術を提供する。ユーザー接点の拡大では、プラゴと連係している充電設備の情報(動的な満空状況などを含む)を、身近なナビゲーションアプリなどでEVユーザーに配信する。

ホワイトレーベルのアプリについてプラゴの大川氏は、「24年内には自動車メーカーにも提供する計画」と話す。ミニアプリについては、スマートフォンのモバイルバッテリーのシェアリングサービス「ChargeSPOT」を手掛けるINFORICH(インフォリッチ、東京・渋谷)のアプリと連係させている。日系自動車メーカーとも協業を検討中で、大川氏は「25年にも提供を始めることを目標にして協議を進めている」と述べる。

ミニアプリの例。インフォリッチのアプリ内にプラゴのアプリを載せている。緑色のピンマークがプラゴの充電ステーションの位置を示す。(出所:プラゴ)

目標の1割強にとどまる充電設備

プラゴが設置している充電器の口数は24年6月時点で384である。内訳は普通充電器が351口、急速充電器は33口となっている(同社の充電器は1台当たり1口)。ハードウエアは新電元工業とダイヘンから調達する。

同社は前述した4つの取り組みを進め、25年内に急速充電口数を1200、普通充電口数を4800に増やす。また、普通充電器の出力は6キロワットであり、最大出力10キロワットの充電器を開発中である。急速充電器の出力は現在50キロワットだが、90キロワットの充電器を24年内に発売する計画だ。

経産省は30年までに、日本における充電器数を30万口に増やす計画を打ち出す。ただ、現時点では計画の1割強の約3万5000口にとどまっており、残り6年弱で計画を達成できるかどうかは不透明だ。

自動車メーカーはこれまで、国内の充電ネットワークに関与してきた。例えば、e-Mobility Power(イーモビリティパワー、東京・港)にトヨタ自動車や日産自動車、ホンダ、三菱自動車が出資。イーモビリティパワーが運用する公共充電器で使えるカードを、自社のEVユーザー向けに発行している。

また、自動車メーカーは多くの販売店に充電器を設置し、他社のユーザーにも開放している。ただ、例えば海外メーカーのEVユーザーが、国内メーカーの販売店にある充電器を利用することには、「心理的な壁」があるとみられる。販売店では戸建住宅に住む人に向けて、充電器の設置(機器購入と設置工事)費用を補助するサービスを提供するケースもある。

それでも充電器の設置数は現在、経産省が目指す30万口に遠く及ばない。自動車メーカーは今後、従来の取り組みを進めるだけでなく、充電サービス事業者とタッグを組み、公共の場所における目的地充電の環境を整備していく必要がある。

(日経クロステック/日経Automotive 高田隆)

[日経クロステック 2024年7月31日付の記事を再構成]

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