トヨタ自動車が強力に支援している空飛ぶクルマ事業者の米ジョビー・アビエーションは、航空ショー「ファンボロー国際航空ショー(FIA) 2024」(2024年7月22〜26日開催、英国ファンボロー空港)に、開発中の機体「Joby S4」のフルスケールモデルを出展した。
トヨタはジョビー・アビエーションに対して約4億ドル(約620億円)を出資し、さらにパワートレーンとアクチュエーター向けの部品提供や製造面の支援も行っている。この強力なバックアップ体制や、ジョビー・アビエーションの資金力、優秀な人材、開発力の高さなどから、空飛ぶクルマ、つまり電動垂直離着陸機(eVTOL)業界のリーダー的な存在となっている。24年内には米連邦航空局(FAA)から型式証明を取得し、25年の商用運航開始を目指している。
S4は5人乗り(パイロット1人を含む)の機体で、最高速度は時速322キロメートル、航続距離は約160キロメートル(電池残量ありの状態)である。サイズは全長が7.3メートル、翼幅が10.7メートル、機体重量は1950キログラムだ。
ジョビー・アビエーションはスタートアップでありながら、垂直統合型の戦略を採る。モーターや電池モジュール、急速充電システムといった基幹部品・装置のみならず、運航管理から乗客用のアプリまでを統合したソフトウエアも自社開発している。
その理由を、同社チーフ・プロダクト・オフィサー(CPO)のエリック・アリソン氏は本誌のインタビューで、「このまったく新しい技術領域において、革新をもたらし、ベストなものを市場に最も早くもたらすためには、垂直統合のアプローチが最適だからだ」と説明した。電気自動車(EV)メーカーの米テスラは、内製を徹底することで、他社の追随を許さない斬新なクルマを市場にいち早く届けているが、ジョビー・アビエーションは空飛ぶクルマで同様のアプローチを採っているわけだ。
同社は今回のFIA 2024で、機体のほかに自社開発した電動推進システム、電池モジュール、フライト・コントローラー・コンピューター、プロペラなどの基幹部品を展示した。
最大236キロワットを出力する電動推進システムはS4に6基搭載されており、テスラの電気自動車「モデル S Plaid」と比較して約2倍の出力を発揮するという。一方で、S4の重量は、約2160キログラムのモデル S Plaidより軽い。
電池は、重量エネルギー密度が1キログラム当たり235ワット時のリチウムイオン電池パックを採用し、同社がモジュール化している。それぞれの電動推進システムは冗長性を確保するために、2個の電池パックに接続されているという。なお、電池パックのメーカーは明らかにしていない。
スマホより軽いコンピューター
ジョビー・アビエーションは機体を制御するための「頭脳」であるフライト・コントロール・コンピューターも自社開発している。軽量性が強く求められるため、同コンピューターは一般的なスマートフォンよりも軽くなっているという。
24年6月、ジョビー・アビエーションは将来の高密度・オンデマンドの「エアタクシー」サービスを見据えて開発した統合ソフトウエア「ElevateOS」がFAAの認可を取得したと発表した。ElevateOSは、コアとなるOS(基本ソフト)、パイロット用のアプリ、スケジュール管理ソフト、乗客用のモバイルアプリ、ライドシェアアプリに似たマッチングエンジンなどを統合したものである。
ジョビー・アビエーションは20年12月に、米ウーバー・テクノロジーズのeVTOL機開発部門だった「Uber Elevate」を買収した。その知見を生かして、ウーバーで実現しているような使い勝手の良い体験をエアタクシーに持ち込もうとしている。例えば、都市Aから都市Bに移動したい場合、ユーザーがアプリに都市名を入力すれば、ウーバー車での地上移動とエアタクシーでの空の移動をシームレスにつなげたものが最適解として表示されたりする。
アリソン氏は「エアタクシーでは1席当たりの価格としてウーバーのプレミアムサービス(Uber Black)と同等レベル、ヘリコプターの3〜4分の1の価格にしたい」としている。
(日経クロステック/日経エレクトロニクス 内田泰)
[日経クロステック 2024年7月30日付の記事を再構成]
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